マツダ「SKYACTIV-X」 ドイツ試乗で分かった“夢のエンジン”の潜在能力
だからスロットルバルブ(吸気量を調整する弁)で吸気をせき止めていたが、それは同時にエンジンの駆動抵抗となり、日常的な軽負荷域、つまりアクセル全開以外の領域での効率の悪化を招いていた。燃焼を維持するために、空燃比の可変幅が小さい従来型エンジンにとって、それはやむを得ない必要悪だった。SKYACTIV-Xではディーゼルエンジン同様にスロットルバルブを使わず、通常空気は「全開」で吸い込ませる。リーンバーンで安定的に燃焼が可能だからこれができる。そしてリーンバーンができるのは圧縮着火だからだ。
燃料を絞るだけでなく、より積極的に希薄にするため、ルーツ型のスーパーチャージャーをエアポンプとして使い、空気の吸気量を増やす制御も行っている。事前説明時には「高応答エアサプライ」とだけアナウンスされていた部品だ。スーパーチャージャーはエンジンの駆動抵抗になるが、トルクの値を見る限り、おそらく過給圧は1.5程度とそう高くない。しかも圧を掛けて送り込むことで、吸気抵抗による駆動損失を減らすことができる。そのエネルギー源はスーパーチャージャーの駆動力なのでプラスになるわけではないが、過給器の駆動ロスの一部を取り戻すことが出来ているはずだ。
「圧縮」と「火花」の切り替えをシームレスに
という具合で、圧縮着火は、問題を限りなく全て解決する魔法の技術ということになる。
しかし、そんな素晴らしい技術なら、何故これまで取り組んできた多くの他メーカーが撤退したのかと言えば、圧縮着火と火花着火の切り替えが上手くできなかったからだ。切り替え時のドライバビリティの激変や、燃焼不良による煤(すす)の発生などが避けられなかった。 例えば空燃比を瞬時に1/2に切り替えることは難しい。だからSKYACTIV-Xでは圧縮着火と火花着火の切り替えをポイント切り替えではなく、シームレス化した。機械圧縮比を「15:1」程度に取り、圧縮着火に必要な圧に達する最後のプラス1程度を、プラグ着火による火種の燃焼圧で行うので、その最後のひと圧縮で臨界に達するまでの圧力差を可変にした。これは常時「1」というわけでなく変化するということだ。そうすることで100%の火花着火から100%の圧縮着火までに段を設けずに連続変化させる方法を採った。 さて、こうした特徴に鑑みて、テストで確認すべき点を挙げてみよう。 (1)切り替えをシームレスにしたと言うが、そこに隠しきれないフィールの変化はないのか? (2)連続変化と言いながら、実際に走った時にほとんど圧縮着火領域が使えてないならここまで挙げた効能が実現しない。実走行時にどの程度、圧縮着火領域を使えているのか? (3)超高圧縮比なら、当然燃焼のピーク圧は高いので、ディーゼルの様にゴロゴロうるさくないのか? (4)トルクや出力は触れ込み通り出ているのか? (5)高回転の伸びやドライバビリティなど何か犠牲になっている項目はないのか?