マツダ「SKYACTIV-X」 ドイツ試乗で分かった“夢のエンジン”の潜在能力
まずは「圧縮比」だ。旧来のガソリンエンジンの圧縮比は「11」程度。圧縮比は高ければ高いほど熱効率が向上するが、そうしたくてもノッキングに行く手を阻まれる。現行のSKYACTIV-Gではこれを当時世界で前例のなかった「14:1」まで高めた。それだけの圧縮比が達成できたのは、大まかに言って直噴による吸気冷却とEGR(排気再循環=Exhaust Gas Recirculation)の賜だ。吸気行程で筒内に直接燃料を噴射すると燃料の気化潜熱(例:注射する前にアルコールで拭かれるとスーッとする現象)で吸気が冷却される。気体温度が下がればノッキングが起きにくくなる。高負荷などで条件が厳しくなって、それでもノッキングが発生する時は、EGRによって排気ガスを吸気に再循環させて燃焼温度を落とす。酸素を含まない不活性ガスは、燃焼温度を下げる働きがあるからだ。 旧世代のノッキング回避策は点火タイミングを遅らせることだった。エンジンが壊れては元も子もないので、全てのエンジンは熱効率の激減を承知で点火タイミングを遅らせていた。 このノッキング回避の方法を変えた。吸気温度を下げることでノッキングが起きにくい状態を整え、さらに回避策をEGR中心に変えた。これが圧縮比の大きなステップアップに繋がった。 SKYACTIV-Xでは、これをさらに上回る熱効率を実現するために、「圧縮着火」(気体を圧縮して自己着火させる)を採用し、ノッキングとの攻防ラインを大幅に押し込むことに成功したのである。耐ノッキング性が向上した結果、超高圧縮比による圧縮着火を実現し、同時に熱効率の大幅な改善をもたらした。SKYACTIV-Xの圧縮比は、スペックの項で紹介した通り「16:1」でまさにディーゼル並み。ガソリンエンジンの常識を大幅に覆すものである。
次に「比熱比」。これは燃料の持つエネルギーをどれだけ効率良く動力に変換するかに紐付いている。逆から見れば、どうやって熱を出さないで燃やすかが勝負。そのためには希薄燃焼(リーンバーン)を実現することだ。つまり少ない燃料と大量の空気で燃やしてやること。こうすると燃焼温度が下がるのだ。 ところがリーンバーンは死屍累々の技術で、従来のプラグ着火では薄い混合気を安定的に燃やすことができず、燃焼室内にカーボンが大量に付着して故障した。そこを圧縮着火で解決した。SKYACTIV-Xでは旧来14.7:1(理論空燃比)であった空燃比を、ピーク値で倍以上に上げた。その値は「30:1」を越えるという。ちなみに空燃比2倍という数字はマジックナンバーで、このあたりから燃費の向上が顕著になる。かつて1.5倍前後が限界だったリーンバーンは、その能書きほどには燃費が良くなかったが、それは希薄燃焼化が十分ではなかったことに起因しているのだとマツダは説明している。 「壁面熱伝達」に関してはまだオレンジ色だ。それでも燃焼温度が下がった影響でエンジンの発熱量が減って熱効率を改善している。 「吸排気行程圧力差」の解決のカギは、理論空燃比にある。旧来のエンジンで、少ししか燃料が要らない場合、この比率を守ろうとすれば、空気の吸い込みを抑制するしかない。そうでなければ薄くなり過ぎて燃焼が維持できなかったからだ。