「戦争が起きたら」北極圏の村にも届いた黄色い冊子
スウェーデンの首都ストックホルムから北へ900キロ以上離れた北極圏の村パヤラ。フィンランドとの国境に接するこの村で老後を過ごすベンクトォーラ・ヴィデクルさん(70)の自宅に今月18日、1通の郵便物が届いた。 【画像】北欧各国の有事に備える呼びかけ 黄色い目を引くパンフレットが1冊。表紙の真ん中には、銃を持った迷彩服の女性兵士。その背後には、スウェーデンの国産戦闘機「グリペン」が飛び、同国海軍が誇るステルス・コルベット艦が波を蹴けたてて進む。その一方で、子供に本を読み聞かせる女性の姿が描かれている。 タイトルは、「危機と戦争が起きたら」。 東西冷戦時代に人生の大半を過ごしたヴィデクルさんは、パンフレットを手に当時の緊迫した日々を思い出した。 (テレビ朝日ロンドン支局 醍醐穣)
■初版は第2次大戦の真っ只中
このパンフレットは、スウェーデン国防省傘下の行政機関であるMSB・民間緊急事態庁が作成し、今月18日から国内の520万世帯に配布を始めたものだ。 今回で第5版となるこのパンフレット。初版は、なんと80年以上前の第2次世界大戦中の1943年に遡る。欧州全土が戦火に覆われ、中立政策をとるスウェーデンのまわりでは、ノルウェーとデンマークがナチス・ドイツに占領され、フィンランドはソビエトと戦っていた頃だ。 その後、冷戦期に改訂が行われ1961年に第3版が発行されてからは、国際情勢の変化を受け発行が止まっていたが、前回2018年に久しぶりに第4版が発行された。 第4版の表紙をみると、家族が備蓄品を確認している様子が大きく描かれ、自然災害などへの備えに重点が置かれていることがわかる。軍事衝突への備えについても中盤以降に記載されているが、扱いはそこまで大きくない。 今回の第5版はそれよりも10ページ以上増の計32ぺージとなり、軍事衝突に関する内容に重点が置かれ、冒頭に掲載されている。そのあとに、自然災害、サイバー攻撃、テロ攻撃などへの備えが、イラストとともにわかりやすく記載されている。 スウェーデン語版と英語版の冊子のほか、ホームページからダウンロードできるデジタル版では、アラビア語、ペルシャ語、ウクライナ語、ポーランド語、フィンランド語、ソマリア語など各国の言語版も公開されている。スウェーデンは欧州の中でも移民が多い国で、国内に住む全ての人が母国語で読むことができるよう配慮されているのだ。