5年生存率約50%の「卵巣がん」、英国でワクチンの開発がスタート
英国の研究所が、世界初となる卵巣がん予防ワクチンの開発を加速すべく、資金提供を受けた。卵巣がんは、米国では毎年1万2000人以上の女性が命を落とす原因になっている上に、診断を受けた時にはかなりの末期になっているケースが多い。これは、腹部の膨張と食欲の減退という、卵巣がんでよくある2つの症状が、これほど深刻でない、多くの疾病にも共通してみられる症状であるためだ。 この数十年で治療法も進歩したものの、卵巣がんはいまだに非常に治療が難しく、診断から5年後の生存率は50%前後にとどまっている。 今回の卵巣がん予防ワクチン開発プロジェクトは、Cancer Research UK(キャンサー・リサーチUK)から資金提供を受け、まずは「BRCA1」あるいは「BRCA2」と呼ばれる遺伝子に変異がある女性を対象とする予定だ。 BRCA(breast cancer susceptibility gene)は、乳がんの発症リスクを有意に増大させることで最もよく知られているが、BRCAに変異がある人では、卵巣がんを発症するリスクも上昇する。女性の人口全体で見ると、一生のうちに卵巣がんを発症するリスクは2%前後だが、BRCAに変異がある人では、この生涯リスクが45%にまで上昇する。 卵巣がん予防ワクチンを開発するOvarianVaxプロジェクトを率いる、オックスフォード大学のアフメド・アフメド教授は、「我々は卵巣がんを予防する、より優れた戦略を必要としている」と語る(同教授は、同大学の卵巣がん細胞研究所の所長を務めている)。「BRCA1/2に変異があり、(がん発症)リスクの非常に高い女性は現状、がん予防のために(卵巣摘出)手術を提案されているが、手術後は子どもを持つ機会が奪われてしまう」と、アフメド教授は語る。 現状、BRCA遺伝子に変異がある女性は、30代半ばで卵巣を摘出するよう勧められており、この場合は早期に閉経を迎えることになる。 今回のプロジェクトで開発されるワクチンは、既に提供されているがん予防ワクチンとは、効果を発揮する仕組みが大きく異なる。既存のがん予防ワクチンは、特定の型のヒトパピローマウイルス(HPV)に対する免疫を構築することで、子宮頸がんの発症を防ぐというものだ。HPVは、子宮頸がんに加えて、口腔、咽頭、直腸、頭頸部のがんを引き起こすことが知られている。 卵巣がんは、他の多くのタイプのがんと同様に、細胞内のDNA損傷が蓄積し、これによって細胞ががん化することで発生する。BRCA変異を持つ人の場合は、この損傷の蓄積が、変異を持たない人に比べてはるかに速く進行するため、卵巣がんを発症するリスクが大幅に高まる。