なぜ期待の“最速トリオ”は男子100m予選で惨敗したのか…重圧と見誤った世界のレベル
観客のいないスタジアムでは地元開催のメリットは少なく、ただ重圧だけが課せられたかたちになった。 そして今回は予選通過ラインが過去の世界大会と比べて高かった。直近の世界大会となる2019年ドーハ世界選手権は予選のプラス通過ラインが10秒23だった。条件が異なるとはいえ、山縣の10秒15なら通過は確実で、多田と小池の10秒22でも十分に通過を狙えるはずだったのだ。 「カットラインが高いのは予想外でしたけど、10秒0台を出せば問題なく通れた。そういう意味でも悔いが残ります。飛び出しがうまくいかずに、自分のレースができませんでした」(山縣) 全世界がコロナ禍に見舞われ、2020年以降はどの国もレースが思うようにできていない。そのなかで日本は比較的恵まれた立場にあり、今季は山縣と多田が自己ベストを大きく伸ばした。しかし海外勢はタイムを出す機会があまりなかっただけで、東京五輪に向けてしっかりとトレーニングを積んでいた。 ドーハ世界選手権からの2年間でスパイクも進化した。日本勢は世界のレベルを見誤っていたのかもしれない。ファイナル進出のために、準決勝で勝負する意識が高すぎて、予選を戦う心構えが不足していたことも考えられる。 男子100mは日本勢の“惨敗”と言っていいだろう。しかし、彼らには国民が大きな期待を寄せる男子4×100mリレーが残っている。100m予選の走りでは、出場した3選手全員が予選を通過した米国と英国に完敗したが、まだまだ立て直す時間はある。 山縣も4×100mリレーに向けて、「リレーはスターティングブロックから出る100m走とは違います。今回のレースを反省して、リレー独自のイメージトレーニングをすり合わせてしっかり準備していきたい」と新たな目標をキッパリと口にした。 惨敗からの大逆襲へ。日本4継チームの金メダル・チャレンジに期待したい。 (文責・酒井政人/スポーツライター)