サークルで出会った女優の卵を応援するといった手前、舞台の誘いを断れない。グループの皆が離脱する中、残ったのは2人だけ…
◆劇場を出ると、みんな苦笑い 日曜日の昼下がり、10名のメンバーは小劇場に集まった。舞台と客席は手を伸ばせば届く至近距離。最前列に陣取った私たちはワクワクして開演を待った。が、始まって間もなく、「ん?」。こ、これは、かなり下手……。 熱演されればされるほど、目のやり場に困る。かといってうつむいていたらMさんから丸見えだ。必死の思いで直視する90分だった。終演後にお花を渡せば、やり切った感にあふれたMさん。劇場を一歩出ると、みんな苦笑いを浮かべて三々五々、駅を目指した。 それから1ヵ月もしないうちに、再びMさんから「舞台が決まりました! チケット代は……」とLINE。「また?」。私はスマホ片手に固まった。 ほかのメンバーも同じだったようで、既読はつくが返事はない。やがてぽつぽつと「行けたら行くね」。前回とのあからさまな温度差に気の毒になってくる。考えあぐねた末、私は「行きます」と返信した。 当日、会場に来たのはマダムKと私だけ。「行けたら行く」の数名は全員ドタキャンだった。舞台の出来ばえはといえば、期待もむなしく初回同様、90分あまりの苦行。Mさんが袖に引っこむのを見届けて、マダムKと私は無言で劇場を後にする。 しばらくして、Mさんから3回目の連絡があった。「舞台やります!」。もう誰からも返信がない。そのLINEからすぐ、マダムKから私に連絡が入った。
◆クレーム主らはさぞかし気まずかろう 喫茶店の隅にいたマダムKが私を見つけて手を上げる。消沈している様子に驚いて話を促すと、マダムKに、メンバーからMさんについてのクレームが入るのだそうだ。「チケットノルマのカモにされるのか」と。 さらにマダムKは、「これ見ちゃったの」とスマホを見せる。メンバーのSNSに「2度と行かない」「金返せ」などの罵詈雑言が並んでいた。 ふつふつと怒りが湧いてきた。Mさんへの不満をなぜマダムKに言うのか。「会長だから、私に伝えてほしいそうなの」 かつてファンクラブの会長だと言っていたのはあくまでも雑談の域。なのに、こういうときだけ都合よく使うなんて。「若い子が夢に一途なのっていいじゃない?私はそういう生き方をしてこなかったから、Mちゃんみたいな子、応援したいのよ」 正直に言えば、微塵も理解できなかった。でも、矛先違いのクレームをつける連中よりは、マダムKのほうが人として好きだ。それ以降、MさんからのLINEはぱったり途絶えた。うまく伝えたのだろう。 しばらくして、グループの食事会が催された。私はマダムKに頼み込まれて出席。Mさんの出欠は未定だが、マダムKひとりでは行きづらいと言う。 居酒屋のテーブルにいつものメンバー。と、そこへ、Mさんがひょっこり顔を出した。私もギクリとしたが、クレーム主らはさぞかし気まずかろう。と、目をやってみたら……。「Mちゃん。会いたかったよー」「こないだは残念。また見たいよー」
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