SNSで炎上する「デートでサイゼリヤはアリか?」議論に見る、根深いジェンダー問題とは?
フリーの編集者・ライターとしてジェンダーに関する記事や書籍に携わる福田フクスケさんが、毎回ゲストをお迎えしてジェンダーの問題についてトークしていく連載「やわらかジェンダー塾」。男性である福田さんの目線で日々考えているジェンダーのモヤモヤについて、さまざまな立場のゲストと意見を交わし、考えを深めていきます。 【画像】福田フクスケの「やわらかジェンダー塾」 今回のゲストは、ジェンダーやフェミニズムをテーマにしたマンガ『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』を連載中のマンガ家・瀧波ユカリさん。SNSでたびたび炎上する「デートでサイゼリヤに行くのはアリなのか?」議論の背景にあるジェンダーの問題についてトークしました。
■サイゼ問題の本質は「身勝手さ」と「ジェンダーロール」かもしれない ──SNSで年に数回盛り上がっては決着がつかない「デートでサイゼリヤに行くのはアリか?」問題。2024年夏には、サイゼリヤの会長が「デートにはちょっと違うかもね」と発言したことで、また話題になりました。しかし、議論を見ると、いまいち噛み合っていないような気がして……。ぜひ、この話題をお二人に深堀りしていただきたいです。 福田さん:僕は、年齢や性別による主張の差が噛み合わない理由なのではと考えています。サイゼリヤ問題って、みんなでサイゼリヤのことを話しているようで、実は人それぞれ違うことを議論している。大きく分けてふたつの問題を同時に話しているように見えるんですよ。 ひとつ目は、つき合いたい相手の好みも聞かずに、デート先を決めてしまう身勝手さ。これはジェンダーロール以前の問題ですね。相手がどうしたいのか聞かずに一方的に決めてしまうのは、対等な関係を築くうえで気遣いや想像力が足りていないんじゃないか、というそもそもの問題。 ふたつ目は、古くからある恋愛的価値観ですね。男性がリードして、お店を選んで、プランを決めて、女性をエスコートして、お金を支払う。女性はそれを見て、男性を見定める。みたいな昔の感覚がまだ根強く残っているというジェンダーロールの問題。 このふたつの話がそれぞれの立場によって入り乱れているような気がします。 瀧波さん:そうですね。「サイゼでデート」に何かしら感じるところがある人の立場がさまざますぎるのかもしれません。本人だけでなく、お付き合いする相手の立場もさまざまですし。みんな立ち位置がバラバラなのだから、意見もバラバラになりますよね。 女性かつ誘われる立場からのお話をすると、デートに誘われると、「何かしら考えてお店を選んでくれるだろうな」と、相手のことを適度に信頼するんですよ。そして期待もする。豪華な場所におごりで連れて行ってほしいというわけでは決してなくて、ふたりの関係性を考えてお店を決めてくれるだろうという期待です。その先がファミレスだと、少しがっかりしてしまうというのが本音じゃないでしょうか。 「サイゼで喜ぶ女性がいい!」と主張している男性は、この信頼に気づいていない、または適度な信頼にも耐えられなくなっているのかなとは感じますね。 ■「男性がリードする」という価値観は誰のもの? ── 一部の男性が、女性からの「適度な信頼」に気づけなかったり、耐えられなかったりする理由はあるのでしょうか。 福田さん:男性側にだけリードしてセッティングする役割が課せられていることを、男性が重荷に感じはじめているのかもしれませんね。リードする役割から降りたがっているというか。 瀧波さん:うーん……。私はそのリード文化があんまりピンと来ないんですよね。頼りがいがあるほうがいいというのはわかるんですけど、よく言われる「男性側から誘い、エスコートし、奢らなければならない」とか、「結婚指輪や婚約指輪は男性が負担する」とか、「絶対に男が一家の大黒柱だ」とか、そういう話で「男性は大変だ!」と言う人も割とまだいますよね。でもそれって20年前30年前の常識で、共働き当たり前な現代の女性にはピンとこない人も多い話です。そこにすごくギャップがあるなと。 ── 「自分がリードしたい!」という女性は多くないかもしれませんが、「なんでも男性にリードしてほしい」と思っている女性はかなり減ってきていますよね。どちらかがリードするのではなく、「二人で対等に話し合って決めたい」という感覚の女性がもっとも増えている体感です。 福田さん:男性が自分自身で勝手にプレッシャーを課しているところはあるかもしれません。デート相手の女性から直接何かを言われたわけではないのに、「リードしなきゃ!」と思っている男性もいそう。 サイゼリヤの話に戻ると、学生同士でサイゼリヤで仲を深めてつき合うとか、同世代で安居酒屋で飲んでいるうちに恋に落ちるとか、全然ありますもんね。なのに、そういうシチュエーションが全然想定されていない。 男性がリードする形で、年齢的にも経済的にも男性が上で、親しくなる前のデートで、女性の金銭感覚を図る……という設定がなぜか念頭に置かれているように思います。これはマッチングアプリや結婚相談所が出会いのきっかけとして普及したことがありそうですね。同意形成をしっかりできないまま、デートに行く機会が増えたので。 瀧波さん:そう、コミュニケーション不全の状態で、デートの約束をしてしまうからギャップが起きている。その理由のひとつに、男性が「お金を持ってないと思われたくない」と思っている問題があると考えています。 ■「おごらなければ恋愛対象から外れる」と思い込む男性もいる ── 「お金を持っていないと思われたくない男性の問題」……。詳しくお聞きしたいです。 瀧波さん:割り勘がイヤじゃない女性でも、相手が出すつもりなのか割るつもりなのかは、あらかじめ知っておきたいですよね。けれど「割り勘ですか?」なんて聞きづらい。なぜなら相手が「お金を持っていないと思われたくない男性」だった場合にプライドを傷つけてしまうからです。 といっても、デート中に確認のシグナルを出す女性は多いですけどね。しっかりと準備したおしゃれをしてくるとか、会話の中で「今、あなたを立てていますよ」とわかりやすい発言をするとか。男性がそれを一方的に受け取るならば「支払いも対等ではなく、男性が払ってくれる」と判断する。 もし割り勘にするのならば、女性が男性を立てて、男性がそれを受け取るだけ……という関係には違和感がありますからね。 福田さん:シグナルの話で言うと、おごる・おごらないにこだわる男性は「お金を出す」ことを、「あなたを恋愛対象として見ています」という女性へのシグナルにしているんだと思います。正直、僕も「異性として見てもらいたいなら、お金を出さないといけない」という感覚はわかります。 瀧波さん:なるほど、男性としてはそこがシグナルなんですね。でもそれって結局、「お金を出せるぞ」という様を見せたいということですよね。つまり、「お金を持っていないと思われたくない男性」ということになりませんか? 福田さん:そうかもしれません。「お金を持っている」ことが「男らしさ」や「異性としてのアピール」になるという不文律を感じているからだと思います。おごらない=可能性の芽を摘んでいる感覚になるというか……。 瀧波さん:それでサイゼに連れて行って「ここで喜んでくれる女性がいい」と言っているのって、お金を持っているにせよいないにせよ、お金をなるべく出さずにすませたいと思っていて、でも「お金を持っていない(=男らしくない)」と女性に思われるのもイヤで、財布とメンツの両方を守りたいという自分の思惑を見せないまま相手を試したい、ってことじゃないかと思うんですよね。はっきり割り勘にしようと言って、降りればいいのに。OKな女性、多いですよ。 福田さん:そうですね、そこは男性が「連れて行くお店や出した金額で品定めされるのは傷つくんだよ」と素直に主張してもいいと思います。それを言えないから、「サイゼで喜ぶ女性がかわいい」とか「そんな試し行為する男性は無理」とか、本当に存在するかどうかわからない男女論にどんどんねじれていってしまう……。 瀧波さん:安いところに連れて行って、文句を言われるのがイヤなのはとてもよくわかります。ただ、「お金がないことはベールに包んだまま、安いところでなんとかしたい」というのは、ちょっと難しいのでは?と感じますね。合意の上でサイゼリヤなら全然構いませんし、合意できないならよりよい場所を二人で探せばいいと思います。 福田さん:昔つき合っていた彼女は自分よりも稼ぎが良かったのですが、彼女がお金を出している時でも、「あなたが払うフリをしてほしい」と言われたことがあったんです。女性もまた「男性がお金を出す」という役割演技をしてくれないと、異性として「萎えてしまう」という感覚があるのでは、とも思ったのですが……。 瀧波さん:そういう方もいらっしゃるでしょう。ただ、もし私がその立場だったらと考えると「男性が嫌な目で見られないように」という意味で、払ったふりをしてもらう可能性もありますね。これも男性を立てるためです。 女性の中には、男性のプライドを傷つけない工夫が染み付いてる人がかなり多いんですよね。折ってしまって痛い目を見たことや、そういうシーンを目撃したことから、人生のどこかで叩き込まれているんですよ。その相手は恋人でなく、父親や上司なんかかもしれないですけれど。 福田さん:なるほど……。相手の希望だと思っていましたが、そういうパターンはかなりありそうですね。気づかないうちに相手に気を遣わせているのであれば、申し訳ない……。 瀧波さん:福田さんのせいというわけではないんですけどね。女性も色々考えてそうなってしまっている部分はあるので……。ただ、男性のプライドを傷つけることに対して、恐れと注意を払っている女性も多いということだけは、男性の皆さんに覚えておいてもらえるとうれしいですね。 編集者・ライター 福田フクスケ 1983年生まれ。雑誌『GINZA』にてコラム「◯◯◯◯になりたいの」、Web「FRaU」(講談社)・「Pen」(CCCメディアハウス)などでジェンダーやカルチャーについての記事を連載中。田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など書籍の編集協力も。その他雑誌やWEB、書籍などでも幅広く活躍中。 マンガ家 瀧波ユカリ 北海道生まれ。2004年デビュー。マンガ『臨死!! 江古田ちゃん』『モトカレマニア』(ともに講談社刊)、コミックエッセイ『はるまき日記』(文春文庫刊)、『オヤジかるた 女子から贈る、飴と鞭。』『ありがとうって言えたなら』(ともに文藝春秋刊)など。ウェブマンガマガジン『&Sofa』(講談社)にて『わたしたちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』を連載中。 イラスト/CONYA 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)