京アニ放火殺人、事件の背景に見えてきたのは…ロスジェネ世代の「一発逆転の呪い」 雨宮処凛さんインタビュー
一方、彼のように職を転々とする中で友達ができるかっていうと、なかなかできないですよ。コロナ禍でホームレスになったロスジェネから支援団体にSOSの連絡が来るのは、助けてくれる人間関係がないからです。実家とも、地元の友達とも関係が切れてしまっている。住み込みで働いて、半年や1年で全国を渡り歩いていく生活が10年以上続いていたりするからです。製造業の派遣を解禁したことによって、こうした大量の寄る辺ない人たちが生み出されてしまった。 ―青葉被告も高校卒業後、何度も引っ越しを重ねています。 大人になったら主たる人間関係って仕事関連になりますよね。でも不安定な雇用だとそのつながりがなかなか作れない。地元の友達は結婚したり子どもができたりと、世代内の格差も生まれて疎遠になる人も多い。だから簡単に一人になる。 ▽女性を神格化 ―青葉被告は犯行直前にためらいがあったと明かしています。しかし、華やかな京都アニメーションに対して「自分の20年間は『暗い』と考え、ここまで来たら『やろう』と思った」と述べています。
(2021年に発生し、車内で男に切りつけられた女子大生ら10人が負傷した)小田急線無差別刺傷事件も、被告は犯行前にためらったけれど、それまでの人生を振り返り、「これまでの人生ってそんなに大事なものだったのか」と思い直して犯行に及んだと供述しています。 多くの人には歯止めになるものがありますが、彼らにはなかった。そういう人が増えると、予想もつかない事件も増えるのかもしれません。ちなみに秋葉原事件の加藤元被告にはそれなりに友達がいたようですが、それでも歯止めにならなかった。彼の残した書き込みなどを見ていると、自分を無条件で受け入れてくれる理想の彼女のような、都合のよい人間関係を求めているように感じます。 ―青葉被告も、京アニの女性監督に理想像を投影して、恋愛関係にあると妄想の中で思いこんでいましたが、「レイプ魔」などと呼ばれたとして負の感情を抱くようになりました。 孤独の中ですがるものとして神みたいな存在だったんでしょう。その人との恋愛関係が成就すれば、自分の人生がすべて救済される、というような。