京アニ放火殺人、事件の背景に見えてきたのは…ロスジェネ世代の「一発逆転の呪い」 雨宮処凛さんインタビュー
一方、非正規でお金がなく女性に見向きもされない、そういう中高年男性像が一定数出てきたのも、ロスジェネからだと思います。彼らが生きていく道しるべが一つも作られていないという事情も、背景にはあるのかもしれません。 ただ、ロスジェネ女性も非正規や貧困で大変な状況にいるわけですが、自暴自棄な事件は聞かない。女性の方が、弱音を吐いたり愚痴を言うのがうまいのかもしれません。一方、男性は孤立してもプライドが高くて弱みを見せられない。 ▽男としての不全感 かつて、そこそこ景気が良かった時代の男性は、働いてさえいれば結婚も家庭も承認も全部ワンセットで付いてきた。その点で辱めを受けることもばかにされることもなかった。そこが総崩れになった今、私と同世代の男性の一部は40代後半になっても半人前扱いを受けるような状況の中にいます。 ひるがえって今、働いていなくても、稼げなくても人としての価値はあるのだという社会になっていればいいですが、なっていない。男は稼いでナンボという価値観が圧倒的な中では、そうできない男性たちがキツいのは当然です。
―そうした男性としての不全感が、一発逆転の発想にもつながっているんでしょうか? ロスジェネに限らず、苛烈な競争を勝ち抜くとか、一発逆転の成功を目指す生き方はもう無理だと思います。だから、そういうことはもうやめようってムーブメントはずっとあり続けると思う。それは日本だけじゃなくて、例えば中国でも「寝そべり族」というライフスタイルが2020年ごろからかなり流行しています。競争に疲れ果てた若い人たちが、最低限しか働かないようになって、マンションを買ったり結婚したりといった上昇志向を持たずに生きるっていうスタイルです。 私の周りの同世代を見ても、仕事で自己実現とかは諦めて、趣味とか自分のやりたいことをやる人たちの方が幸福度が高そうです。確かに貧乏だったり結婚できなかったりってのはあるかもしれないですが。少なくとも、そういう人がたくさんいるってこと自体、世の中には全然知られていないですよね。