京アニ放火殺人、事件の背景に見えてきたのは…ロスジェネ世代の「一発逆転の呪い」 雨宮処凛さんインタビュー
―雨宮さんの自伝(『生き地獄天国』ちくま文庫)にも、バンドを組んで一発逆転しようというくだりが出てきます。世代に特徴的な発想なんでしょうか? そう思います。今の40代後半は日本の良い時期を見ている最後の世代なんですよ。「頑張れば報われる」という言葉が通用していたことを知っている。バブル時代の、たくさん稼いでたくさん使うっていう価値観にも浸っている。でも、自分より下の世代と話をすると、普通の人生とか安定した人生を求めているんですよね。今の40代が10代だった時は、「普通の生活」は毛嫌いされていました。「おいしい生活」なんてキャッチコピーもあったように、普通や安定ではなくて、特別でスペシャルな自分、そういう生き方を過剰にあおられた最後の世代。そんな幻想を容易に抱けなくなった今も、喉から手が出るほど特別感がほしいという気持ちはあるんじゃないかな。 でも30代以下は日本が停滞し始めてからの世代で、右肩上がりの状態を知らないので、そういう渇望感がないんだと思います。
▽「だめ連」運動 ―公判で青葉被告は、京アニ大賞に応募したことで何かしらの賞を取れたり、執筆依頼が来るようになったり、アニメ化されたりするようになると思っていたと述べています。 1990年代には、そういう行動こそが「だめ」をこじらせるんだと指摘する、「だめ連」の運動がありました。 彼ら「だめ連」は、だめなまま生きていくことを肯定しはじめたんです。一番よくないのは、だめをこじらせること。例えば過剰に上昇志向を持ったり、モテようとして頑張りすぎたり…当時言われていた「こじらせる」例の一つに「小説家を目指して新人賞に応募する」というのがありました。90年代カルチャーの中には、すでにそういうのはイタいという価値観もあったわけですが、青葉被告は屈託なく小説家を目指している感じがします。京アニに触れるまではサブカルチャー的なものと接点が乏しかったのでしょうか。 ▽報われない頑張り ―ただ、高校時代は友人や彼女もいて、青春していたようです。その後、音楽系の専門学校に進みましたが、「時間をかけて教えすぎている」と反発して退学。その後、どこかの段階で見切りをつけてバイトなどを辞める行動を繰り返しました。一方で、公判では「頑張っても報われない」と口にしていました。