「日本の災害時のトイレ対策は遅れている」トイレ研究家が語るその理由 #災害に備える
水洗トイレが使えなくなることをイメージして災害時の備えを行うべき
――災害が発生することを想定して、家庭ではどのようにトイレの備えをしていくべきなのでしょうか。 加藤篤: すべての人に備えてほしいことの1つ目は「携帯トイレ」です。これは家の便器にかぶせて使う袋式のトイレのことを指します。袋の中には凝固剤や吸収シートが入っているので、その中に排せつして、大小便を固めて安定化させ、袋の口を縛って、ごみの収集が再開されるまで、どこかに保管しておくというものです。ごみの収集・処理に関しては、自治体によって対応方法がことなるため、確認することが必要です。 2つ目は「照明」です。窓がないトイレだと昼間でも真っ暗になります。両手が自由に使えるランタンタイプやヘッドライトのような明かりが便利です。3つ目は「トイレットペーパー」。これはみなさん意外と自分がどれくらい使うのかを知らないですよね。一度、トイレに行って使う量を巻き取ったときに、すぐに拭かないで伸ばして長さを測ってみてください。その長さと1日にトイレに行く回数と日数を掛けると、必要な備蓄量が計算できます。1ヶ月分ぐらいは備えておくことをおすすめします。
食べることと排せつすることはセットで考えるーイタリアの災害時トイレ対策の例
――日本はこれまでさまざまな災害を経験していますが、進んでいると感じることはありますか? 加藤篤: 今回の能登半島地震をきっかけに、排せつにも意識が向きつつあると感じています。でも、やはり排せつは、どちらかというとタブーな話題で言葉にしないことが続いてきているので、国全体としては遅れています。 ――加藤さんは海外の災害時のトイレ対策についても調査されているそうですね。 加藤篤: イタリアへ現地調査に行ったのですが、残念ながら日本よりもイタリアの方が進んでいました。日本は、避難所に災害用トイレを設置するとなったら仮設トイレを持っていくことで完了としがちですが、イタリアは水洗トイレを復旧させようとします。コンテナ型のトイレを設置し、できるだけ段差が生じないように地面に下ろします。そして、被災状況にあわせて洗浄水を準備したり、排水管を仮設工事したりして、いつもと同じ水洗トイレを応急的に作ろうとします。 イタリアは、災害時においても日常と同じ暮らしを整えることに全力を注ぎます。だから、食事でもキッチンカーがやってきて、温かい食事を何百人分も作ります。それは日頃、温かい食事を食べているから、その日常と同じところを目指すわけです。トイレもそれと同じで、日常に近いトイレ環境を目指します。おいしい食事と安心できるトイレを用意して、「みんなで英気を養って早く復旧しよう」というのが彼らの考え方です。 日本は、「災害時なんだから我慢しよう」となるんです。そうすることで、体調を崩して関連死につながっていくんじゃないかと考えています。 災害時に快適なトイレ環境を用意することは、決して贅沢なことではないと思います。給排水工事をしてでも、いつもと同じようにトイレが使える状態を目指す。そうなるように意識を変える必要があると考えています。 ----- 加藤篤 NPO法人日本トイレ研究所代表理事。芝浦工業大学卒業後、設計事務所、まちづくりのシンクタンク勤務を経て、2009年に現職に就任。災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業などを実施。著書に『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『うんちはすごい』(イーストプレス)などがある。 文:田中いつき (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました) 地震や台風、火山の噴火などの自然災害は「いつ」「どこで」発生するかわかりません。Yahoo!ニュースでは、オリジナルコンテンツを通して、災害への理解を深め、安全確保のための知識や、備えておくための情報をお届けします。