「バリバリにアクセルを踏んでいく」松本氏が明かすSPAC上場の知られざるメリット──コインチェック 米ナスダック上場【インタビュー】
暗号資産(仮想通貨)取引所コインチェック(Coincheck)、正確には、その持株会社となるコインチェックグループ(CoincheckGroup)が11日、米ナスダックに上場した。日米を問わず、取引所としては米大手のコインベース(Coinbase)に次いで、2社目の上場となった。 上場の狙い・グローバル戦略については、上場予定が明らかになった11月にマネックスグループ 取締役会議長兼代表執行役会長の松本大氏に聞いた。今回は上場を踏まえて、これまで語られることのなかったSPACとのやり取り、SPAC上場に見出していたメリットなどを聞いた。 ◇◇◇
ブーム去ったSPAC上場、プロセスを継続させた理由
──2020~21年にSPAC上場ブームがあり、その後、上場数、資金調達額は大幅に減少した。その状況下で、マネックスがコインチェックの上場プロセスを継続することができた要因はなにか。 松本氏:SPAC(特別買収目的会社)はひとつの仕組みだが、当然それぞれのSPACを手がけている人たちがいる。コインチェック(Coincheck)はとても面白い会社で、世界にもアピールできる会社と考え、アメリカの資本市場、特にナスダックに上場したいと考えた。先日話したように「世界共通買収通貨」を手に入れることができるからだ。 関連記事:コインチェック、米ナスダック上場の目的・グローバル戦略──メジャーで戦うために“世界共通買収通貨”を手に入れる【松本大氏 緊急インタビュー】 ただし、アメリカの資本市場でやっていくには、アメリカの法体系やSEC(米証券取引委員会)とのやりとりなどいろいろハードルがある。世界一の資本市場なので、要求も多い。それに耐えられる人材が今のコインチェックにいるかというと、そうではない。だからといって、アメリカの上場企業にふさわしいCEOやCFOを新たに雇用することも簡単ではない。 それなら、アメリカの資本市場や上場プロセスにきわめて詳しい人たちがやっているSPACと合併することによって、そうした人物も同時に仲間にすることができるのではないかと考えた。今回、合併によりコインチェックの持株会社となるコインチェックグループ(CoincheckGroup)には、SPACの人たちが残る。新たにコインチェックグループのCEO、CFOになる人物は、今回合併するSPACのメンバーだ。合併後にも重要な役職を担ってもらう。これは今までにはないパターンだろう。 通常、SPAC上場では、合併後はSPAC側の人間はいなくなる。アメリカの会社であれば、それでもアメリカの資本市場と向き合っていけるだろうが、コインチェックのような日本企業の場合はそうはいかない。なので今回は、そうした展開、体制に最適なSPACを選んだ。 ──ということは、SPAC選びに相当な手間をかけた。 松本氏:主幹事のJPモルガンが当時600社くらいあったSPACをリサーチして、30社程度まで絞った。そこから私が10社程度まで絞り、実際に会って話をして、最終的に決めた。最初から従来のような合併すれば終わりというSPAC上場ではなく、将来、一緒に働くことになる可能性がある人間としていろいろ話をして決めた。 ──交渉では最初から、合併後も残って、一緒にビジネスして欲しいと伝えていったのか。 松本氏:最初からそうは言っていないが、結局、その後の3年間、毎日話をしていった。週に5日は毎朝7時半にSPAC側と話をすることで私の朝が始まった。プロセスが長引いたことで、結果的にコミュニケーションや信頼関係が深まった面もある。最近、相手方の奥さんが「あなたに付き合っている人間が、私以外に地球上にもう1人いる」と言ったらしい。それくらい話をしてきた。 それでも非常に大変で、FTXの事件や規制面でもいろいろな向かい風があり、会計など、どう解決すべきかまだ整理されていない問題もあった。 ──暗号資産/Web3企業の会計はアメリカでもまだ整理されていない? 松本氏:暗号資産交換業で、すでにナスダックに上場しているコインベース(Coinbase)とコインチェックとビジネスモデルは少し違う。コインベースは取引所が中心で、コインチェックは販売所が中心。販売所の会計はどうすべきかを整理する必要があった。 ──今年1月にSECがSPACの規制強化を決めた。その影響もあったのか。 松本氏:3年間に2回ぐらい、SPAC関連のレギュレーションは厳しくなった。以前は、よく「SPAC上場は簡単」などと言われたが、今はSPAC上場はIPOより難しくなった。だが、IPOに切り替えるとしても、アメリカの資本市場に向き合える人物を新たに探し、信頼関係を築いて、そこから新たにスタートすることになる。ならば、もうここまで築き上げた関係でやり切った方が良いと判断した。