「それは違うよ」と父に言いたい――性教育を受けた生徒たちが大人に感じるギャップ #性のギモン
生徒同士が匿名でやりとりすることに、どんな意味があるのか。谷村先生は、「下ネタと扱われずに、性について話せる場」になると言う。 「授業の感想に、『自分は誰かとつき合ったとしてもセックスはしたくないと思っているけど、自分と同じような人はいるのか不安』と書く生徒がいました。私が『それでいいと思うよ』と何度コメントを付けて返しても、また同じことを書く。それと同じ内容が、無記名の質問の中にもありました。それに生徒たちが、『自分はそうじゃないけど、そういう人がいてもいいと思う』『自分もそうです』などと回答をしていました。その生徒は、『それでいいんだな。そういう人がいても当たり前なんだなと思えた』と。周りの生徒たちに認められて、やっと納得できたんだと思います」 いろいろな事情から、性的なことについて話したり聞いたりすることに抵抗がある生徒もいる。そうした生徒には配慮がなされる。
人と接する時に授業を思い出す
東京・世田谷区にある私立の大東学園高校でも1年生の総合学習「性と生」で年25時間ほどのセクシュアリティ教育を行っている。同校でも女子から男子へ、男子から女子への匿名の質問と回答を行う。また毎回の授業で生徒から匿名での質問を受けつける。荻野雄飛先生(31)はこう語る。 「質問内容は、生物学的なことや他者との違い、周囲との関わり方など多岐にわたっています。例えば、『なんで男女に差別があるのか』『なぜ周りと違う少数派というだけでハブられてしまうのか』など。次の授業の冒頭で解説や考え方を示します。質問によっては、『みんなで考えよう』と授業で話し合います」
授業の改善のため、折を見て何人かの生徒に声を掛け意見を聞いたりもする。9月末、2年生の女子生徒4人が集まった。彼女たちは昨年、非常勤講師として「性と生」を担当する水野哲夫先生(69)の授業を受けた。 「どの授業が記憶に残っている?」と水野先生が聞く。四ノ宮ユウさん(仮名)は、「ナプキンやタンポンなどの生理用品を実際に見て、吸水力を試したり使い方を知ったりする授業」を覚えていると言う。 授業の改善してほしい点についても意見が出る。永野ケイさん(仮名)は、「ジェンダーや多様性について、海外のほうが進んでいるし発信も多いと思います。日本のことだけでなく、海外についてもっと知りたかった」と言う。 1年間、授業を受けてみて寝屋川コウさん(仮名)は自分の変化をこう語る。 「差別の話もあったから、人と接する時に授業を思い出しています。例えば、男性の髪が長かったりネイルをしていたりしても、『男らしくない』とかじゃなく、個性だから認め合う」