「それは違うよ」と父に言いたい――性教育を受けた生徒たちが大人に感じるギャップ #性のギモン
回答を見た生徒たちが、ザワザワしている。先生が周りの人と話すことを促す。生徒たちは活発に話し始める。頃合いを見て先生が、「ベストアンサーはどれだと思う?」と聞く。生徒の多くが選んだのがAとBの回答だった。 次に先生が、「ひとつだけこのクラスの生徒が出した回答ではないものがあります。どれかわかりますか」と聞く。生徒たちから間髪をいれずに「C!」の声。先生が、これは1990年代半ばに雑誌「Hot-Dog PRESS(ホットドッグ・プレス)」(講談社、1979~2004年)に掲載された読者の相談とその回答だと言うと、「えー!!」という大きな声があがる。同誌は「恋愛術」などの特集を掲載して「デートマニュアル」とも言われ、最盛期には発行部数70万部を誇った。 Cの回答について、生徒たちから「女性に対しての配慮がまったくない」「男性の快楽中心」「上から目線」「男尊女卑」などの意見が出る。中には、女性に対して「動物」という言葉を使っていることに違和感を持つ、という指摘もあった。 続いて先生は、「パートナーと性的な関係を持つ時、大切にすべきことベスト3を考えてみて」と話し合いを促す。生徒たちからは、「相手の気持ち」「避妊具」「責任」などを大切にすべきという意見が出た。
アンケートで浮かび上がる、性へのネガティブなイメージ
これは、ジェンダーや人間関係、人権や多様な性などについても広く学ぶ「包括的セクシュアリティ教育(以下、セクシュアリティ教育)」の授業の一つだ。ユネスコ編の『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』がその指針となっている。 佐藤先生がこの授業について説明する。 「授業をする前のアンケートで、生徒がセックスに対して汚い、気持ち悪いなどネガティブなイメージを持っていることがわかりました。中には書くのも恥ずかしくてS○Xと伏せ字にする生徒もいる。のちには伏せ字の生徒も『生きていくのに大事なことなんだ』と感想に書いていましたが、初めは性について話すことはかなりハードルが高いんです。そこでざっくばらんに話せるよう、雑誌の回答者になるという形を取っています」 谷村先生もこう付け加える。 「まだ高校1年生ですから、恋愛経験にも個人差があります。また、これより前に多様な性の授業で『恋愛しない人もいる』という話もしている。だから自分の経験や意見を書くのではなく、あくまで『名回答者になって』としています。自分の意見も透けて出てきますが、恋愛経験があってもなくても、恋愛をしないセクシュアリティであっても回答を書くことができる。それがこの教材のよいところだと思っています」