「クロ現」やらせ疑惑、水島宏明に聞く「報道の倫理」
ーー被取材者が証言を覆すということは良くあるのですか? 水島:それはめったにないことですよね。どうしてこうなったのか。特に今回の番組では、ブローカーは、一番の重要人物なわけです。その人物との間に、事前の信頼関係もないままで証言を取り、ブローカーの活動拠点と称した事務所で、多重債務者とのやりとりを(離れたところから)撮影している。やりとりの後、事前に知っていた多重債務者に「直撃インタビュー」までしています。 ブローカーとされた人物が、こうした取材の流れを了解し、NHKに協力してくれない限り、この取材は成り立たないはずです。実は信頼関係がなかったとか、「その時に初めて会った」、というのは非常に不可思議ですし、あってはならないことでしょう。逆に言えば、ごく薄い信頼関係だったからこそ、発言をひっくり返されたのかもしれません。 ーー記者が身分を名乗ると取材ができない場合もあるかと思います。 水島:例えば、薬を密売している人が路上に立っているときに、記者が、身分を隠して「いくらだったら買えるの?」と取材することはあります。ただ、その場合でも、取材は公正に、フェアにやることが大原則です。例外として、取材しようとしている事実が重大な場合、そして、身分を隠さないとそれを知ることができない場合には、名乗らないことが例外的に許されることはあり得ます。 今回のケースが、それに該当するか。番組を見る限りは、ブローカーとされる方を騙し、身分を偽って取材をするという流れではなかった。彼に協力してもらい納得してもらった上で、顔や名前を隠す、という作りのVTRになっていましたので、例外的なケースには該当しないと思います。
ーー「出家詐欺のブローカーが多重債務者の相談にのる」というシーン。中間報告には、「部屋の向かいのビルの屋上からブライド越しに撮影され、音声は室内に置かれた無線マイクから無線で飛ばす方法で収録された」とあります。 水島:あの相談風景の映像は非常に妙なんですよ。窓の外側から撮影しているんですが、部屋の側からもカメラの位置が分かりそうな感じで撮られているんです。ですから、私はあの映像を見たときに、部屋にいる2人、少なくともブローカー側が了解した上で撮影しているんだろうな、と思いました。望遠レンズを使ったんでしょうけれども、部屋にいる人がパッと窓の方に目をやれば、そこにカメラがあることがわかるような映像だった。 しかも、ワイヤレスマイクをブローカーか相手に仕込んでいて、音の取り方、会話が非常に明瞭に取れていた。なので、取材者と部屋のいる人の間で、ある程度の了解があり、示し合わせて撮影していたと思いました。事実、中間報告には、実は記者自身が部屋の中にいたと書いてありました。 それが適切だったのか。再現だったのか、という問題はあります。映像だけ見ていてもわからないのですが、今回出てきた中間報告には、撮影についての説明がありました。カメラが回りはじめてからまもなく、記者が、「よろしくお願いします。10分か15分やりとりしてもらって」と言う。「ブローカー」と「多重債務者」のやりとりが終った後で、記者は「お金の工面のところのやりとりがもうちょっと補足で聞きたい」と声をかけた。やりとりの終わりには、「ブローカー」とされるA氏が「こんなもんですか」と記者に話しています。 「お金の工面のところのやりとりがもうちょっと補足で聞きたい」ということは、わかりやすい日本語でいえば、「もうちょっと生々しく言ってよ」ということですよね。実際にこの言葉通りに記者が言ったのかどうかはわかりませんが、もし、再現であるとすれば、記者やディレクターが欲しい素材でない場合は、「AさんBさん、もうちょっとこうやってください」と注文をつけることはあり得るわけですよね。