「クロ現」やらせ疑惑、水島宏明に聞く「報道の倫理」
ーー中間報告には、記者の認識とブローカーと紹介された方の主張(「自分はブローカーではない」)は、「大きく食い違っている」とあります。なぜ、ここまで主張に隔たりがあるのでしょうか。 これはもう、2つに1つしかないわけです。記者の側と、記者と意見が同じとされる多重債務者の側が嘘をついているのか。あるいは、ブローカーとされる人物が嘘をついてるのか。どちらかだと思います。ただ、いずれにせよ、記者の取材が適切ではなかったということは言えると思います。 2008年、日本テレビの番組『真相報道 バンキシャ!』の「虚報」騒動がありました。岐阜県庁に裏金作りがあるという情報を「タレ込んで」きた人、業者がいたんです。その証言を『バンキシャ!』が収録して放送した。業者が、「金銭がこう動いている」といって、もっともらしい預金通帳など、いろんなものを持ってきたので、取材する側がこれは本物だと考えて、スクープとして放送した。これが、実は、作り話だったんですね。それで、当時の日本テレビの社長が辞任するという非常に大きな問題に発展したんです。 記者の側に、嘘をつこうという気はまったくなく、裏金に関与したと語った人物が嘘をついていたのです。会社を揺るがす事件となり、関係者が更迭された。この頃から、テレビ報道の業界では、「その本人が、本当にその人であるか」、例えば、裏金を作っているという人物なら、単に預金通帳があれば良いのではなく、本当に作っている証拠は何か、もっと2重3重4重5重に証言を検証してから放送しよう、と、かなり慎重な姿勢が生まれたのです。証言者の身元、住所、身分証明書もチェックしよう、となった。これは、NHKだけでなく、民放各社も等しくやっていることだと思います。 例えば、佐村河内さんの問題で言えば、彼は、NHKだけでなく、民放各社の番組で、「音が聞こえない、障害をもった天才作曲家」と持ち上げられていたわけですね。実は、ゴーストライターがいたという話になり、各局の報道姿勢が問われたわけですけど、このケースで言えば、(報道の手続きとしては)彼の障害者手帳のコピーをとることが必要になるわけです。民放もそうですし、NHKもおそらくやっている。NHKは、ほかの民放と比べても、この種のハードルは非常に高いんです。にもかかわらず、今回のケースでは、「ブローカーが本当にブローカーなのか」というチェックをどこまでやっていたのか。取材した記者だけがチェックしていたのか。通常なら、上司、デスク、プロデューサーがチェックする。NHKであれば当然のようにやっているはずなんです。でも、やっていれば、今回のケースは、「待てよ、ちょっと危ないぞ」という話になったはずなんですよね。ここがどうも、腑に落ちないんですよね、私は。