「クロ現」やらせ疑惑、水島宏明に聞く「報道の倫理」
THE PAGE
NHKのクローズアップ現代で「やらせ」が指摘されている問題で、調査委員会は9日、中間報告を公表した。番組で「(詐欺あっせんの)活動拠点」とした表現は誤りだったと認めたが、やらせの有無については調査を続けるという。取材手法に問題はなかったのか。報道番組における「やらせ」と演出の境界線はどこにあるのか。元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクターで、法政大学教授の水島宏明氏に話を聞いた。
ーーNHKのクローズアップ現代の「やらせ」疑惑報道、印象は? 水島宏明:まさか、あのクローズアップ現代が、という印象でしたね。クローズアップ現代は、NHKスペシャルやETV特集と並び、NHKの報道番組の看板、エース番組でしょう。これまで、数々のスクープも出しています。映像だけでなく、スタジオでのトークも使って伝えるので、今回の出家詐欺の回もそうですが、映像では伝えづらい問題の解説や、構図をフリップで説明するということにも長けていた。そうした調査報道を専門としている番組で、「やらせ」疑惑が生じたのは非常な驚きでしたね。 他方で、平日、毎日放送されている番組で、調査報道を連日行うのは、ディレクターや記者からすると非常に製作の負荷がかかります。民放では、調査報道は、月に1回やせいぜいに週に1回のペースです。ときどきは、「ゆるキャラがどうした」といった「柔らかいネタ」をやりつつも、コンスタントに調査報道をやっている。NHKは「層が厚い」のだなと思っていましたが、いつかこうした問題が起きるかもしれないと懸念していたところもあります。 ーー今回のNHKによる「中間報告」で気付いたことは? 水島:取材された側が、「自分はブローカーではなく、記者に頼まれたから、ブローカーという役割を演じた」と言っています。それが事実であれば、とんでもないことです。ただ、取材された側が、取材時には納得していたというケースもあり得る。取材が終ってテレビで放送を見て、周囲から、「お前どうしてあんなものに出たんだ」とか「顔を隠していたって、お前だと分かるよ」と言われて、「(被取材者が)自分は分からないと思ったから出たのに」と不満をのべる、話をくつがえすことは、取材では時々生じる出来事なんですよね。だとすれば、放送での本人の隠し方やプライバシーの守り方に問題があったのかもしれないし、本人と記者とのやりとり、信頼関係に問題があったのかもしれない。結果的に、こういうことが起きてしまったので、記者の取材が甘かったという事は言えると思います。