世界文化賞受賞者5人の「もう一つの横顔」 それぞれに芸術の道を歩み、究める
世界の優れた芸術家を顕彰する「第35回高松宮殿下記念世界文化賞」(主催・公益財団法人日本美術協会=総裁・常陸宮殿下)の授賞式が、11月19日に東京都内で行われる。絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像のそれぞれの分野で受賞した5人は、どのように芸術の道を歩み、究めてきたのだろうか。受賞者の「もう一つの横顔」をお届けする。 【写真】スタジオでスタッフと制作を進めるドリス・サルセド氏 ■深遠なる他者への敬意 絵画部門 ソフィ・カル氏 パリ郊外のアトリエには、壁にかけられた作品と同じくらい、数多くの剥製動物が置かれている。どれも友人からもらったもので、「剥製は友人。多くの人と一緒に暮らす方法であり、死んだ存在ではない」というのが理由だ。 壁の作品も実は他人のもの。「好きなアーティストとの交流の数々。私の家には何百人ものアーティストがいる」。尊敬するアーティストといえば、ルイーズ・ブルジョワ、シンディ・シャーマンと、世界文化賞受賞者の名が続く。 自らの作品に囲まれて暮らすのを好まないためでもあるが、一方で、自らの作品には、「儀式の創造。そして、イメージと言葉を通してのストーリーテリング」と話す。対照的に、こちらは両親の影響を受けて手法を培ってきた。 現代アートのコレクターだった父と、読書好きの母。イメージに言葉を加えた写真家、デュアン・マイケルズの作品を父のコレクションで見た記憶が特に大きかったという。 自らの創作の一つに、目の見えない人に一番美しいと思うものを尋ねた作品がある。答えから画像を引き出し、それに合う文を探す。「海」「自然」「アラン・ドロン」…。それらは他人から聞いたものであるはず。「視覚のない人の視覚的想像を探る行為は計り知れない」と、奥は深い。 そうした他人の内なる思いに近づくことで創作を続けてきた。調べれば分かる情報ではなく、「寝るとき左を向くかどうか」といった些細な事柄が重要であり、そこに芸術性を見いだしていくのだ。 「何かを明らかにしようとしているのではない。些細なことが詩的であり、その人に関する情報を与えてくれなくとも、人柄をうかがえる」。創作の神髄が、ここにある。