作家として多数の連載を抱え、4つのシェア型書店をプロデュースし、横綱審議委員に就任…超多忙の仏文学者・鹿島茂が次にたくらむ「出版業界との『連帯』」とは何なのか
「もっとも長い現代新書」の最高記録を更新予定
―― 「群像」3月号からスタートした連載「第ゼロ次世界大戦」は七年戦争がテーマです。七年戦争を世界史的文脈でとらえる歴史書がほとんどないことから、ご自分で書き始めた、と書かれています。どのくらいの長さになる予定ですか? 鹿島:わかりません。書籍化する際は、巨大な本になるかもしれない。 ―― 現代新書として書籍化していただく予定なのですが。 鹿島:新書には収まらないかもしれないね。これまでの現代新書で一番長いのは 『改訂新版 新書アフリカ史』かな? ――現代新書60周年記念冊子「新書へのとびら」によりますと、坂下昇『現代米語 コーパス辞典』(1983年刊行)で、1203ページです。 鹿島:それより長くなるかもしれません。 ――「もっとも長い現代新書」記録更新を楽しみにお待ちしています。
横綱審議委員に就任
―― 多数の連載を抱え執筆がお忙しい中、シェア型書店のプロデュースにも取り組んでおられ大変多忙でいらっしゃるわけですが、なんと今年2月に横綱審議委員に就任なさって驚きました。 鹿島:完全に青天の霹靂です。なんで選ばれたのか私にもわからない。 昔は、横綱審議委員会にドイツ文学者の高橋義孝や、フランス文学者の辰野隆などがいました。そういう路線の人選を復活させたのかもしれませんね。私は辰野隆以後、審議委員に選ばれた最初の仏文学者なので、これは名誉なことだと思い、依頼を引き受けました。 ―― 辰野隆はどういう経緯で就任したのでしょう。 鹿島:彼は大の相撲好きでね。父親の建築家・辰野金吾が庭に作った土俵で弟と相撲をとっていたんです。弟の保は砲丸投げで活躍するなど大変なスポーツマンで、相撲も強かった。出羽海部屋からスカウトされそうになったという話もあります。 ―― 辰野金吾は、初代国技館を設計していますね。辰野隆が庭で相撲をとっていたとは意外です。 鹿島:僕も相撲をやっていたんです。 ―― あまりにも意外です。 鹿島:中学1年のときに、横浜市の中学生相撲大会の個人戦で3位になりました。当時、社会の佐久間先生という相撲好きな人がいて、その人が体が大きな子を集めて、中学校の片隅に土俵を作って、そこで稽古させていたんです。 ――当時の相撲の親しまれ方が伝わってきます。鹿島さんが好きな力士は誰でしたか? 鹿島:栃錦ですね。「巨人、大鵬、卵焼き」の時代では、世の中では大鵬が人気でしたが、僕は柏戸のほうが好きだった。 ―― 横綱審議委員ってお忙しいのですか? 鹿島:東京で行われる場所は結構見に行く必要があります。稽古も見なきゃいけないし。 横綱審議委員って完全なボランティアなんですよ。でも、同じ名誉職でも、政府の審議会なんかよりはるかに楽しいだろうしね(笑)。 ―― ひそかにうらやましがっている相撲好きの文学者の方々がいるかもしれませんね。それにしても、この現代新書の著者インタビューシリーズで、出版業界の変革や相撲のお話を伺うとは予想していませんでした。
「広くて、しぼった」テーマ
―― 今年60周年を迎えた現代新書のこれからに対してご意見をいただけないでしょうか。 鹿島:「広くて、しぼった」テーマの本がいいと思いますよ。たとえば、私が挙げた佐藤賢一さんの『カペー朝』(第1回「もっとも多忙な仏文学者、鹿島茂が選ぶ現代新書はこの3冊だ!」参照)。中世とか中世フランス史だと漠然として広すぎるけれど、「王様」にしぼって書かれている。大衆性と専門性のバランスのとり方がだいじなのではないでしょうか。 (聞き手:伏貫淳子) *
鹿島 茂(作家・フランス文学者)