作家として多数の連載を抱え、4つのシェア型書店をプロデュースし、横綱審議委員に就任…超多忙の仏文学者・鹿島茂が次にたくらむ「出版業界との『連帯』」とは何なのか
出版業界全体との「連帯」をめざす
―― 今春オープンした「PASSAGE SOLIDA」は、一歩足を踏み入れると、不思議なブルーの天井がまさにブシコーさんが重視した「驚異(メルヴェーユ)による不意打ち」です。鹿島さんも、ブシコーさんにならって、店全体に欲望喚起装置を備えられたわけですね。店はだいぶ大きいようですが。 鹿島:1、2階あわせて550棚くらいあります。 ―― 1・2店舗目とだいぶ雰囲気が違いますが、この「SOLIDA」ではどういうことを意識なさったのでしょう。 鹿島:SOLIDAとは、フランス語のsolidaritéが由来で、「連帯」という意味です。出版業界全体との連帯を表明しました。 シェア型書店では、新刊よりも所蔵本(古本)を売る人が多いので、出版社や取次と関わりがありません。それではいけない。出版業界全体と連帯するために、「SOLIDA」では新しいオンラインシステムを導入して、売れた本の出版社と著者に、新刊・中古を問わず売り上げの一部を還元することにしました。この工夫を含めたオンラインシステムを、これから貸し出していくつもりです。
地方の書店を地元の本好きが支えるシステム
―― どういうところに貸し出すのですか? 鹿島:たとえば、地方で経営に困っている書店です。その書店が棚の一角をシェア型書店として貸し出し、その運営に必要なオンラインシステムを我々が手数料をいただいて貸し出す。 シェア型書店って、やってみたらわかるけど、管理が一番難しいんです。たくさんいる棚主の多様な本を管理するのは、個人経営の書店でやろうとしてもあまりにも労働時間がかかりすぎる。その部分をうちのシステムが代わりに行います。 ―― 書店が店内の一角でシェア型書店を経営するためのお手伝いを始めるわけですね。 鹿島:そうです。書店は、なによりまずお客さんを店に来させることが必要です。ネット書店では買わせない。そのためには熱心に売る人が必要です。 熱心に売る人っていうのはどういう人かっていうと、本好きの人。本好きの人が本屋になるのが一番いい。その人が、自分の好きな本や読みたい本を仕入れて、売る。そうすれば、その棚の固定ファンが生まれ、店に定期的に来るようになる。つまり、その地域で本屋さんがなくなると困る本好きの人たちに、みずから本屋さんになってもらうわけです。そうしたら、棚の賃料が家主である本屋さんに入って、町の本屋さんは存続していける。 ―― たしかに、人気のある個人書店は、店主の個性と選書に固定ファンが生まれています。そういう個人書店を、その地域に住む本好きの人たちが、町の書店の棚の一角で始めるわけですね。本好きならではの個性的な本屋さんを営むことによって、家主である書店と「連帯」する。 鹿島:そうすれば、本屋さんがなくなりつつあるような町でも、そうした本好きの人たちの個性的選書の棚は、その地域にごく少数いるかもわからない本好きの人たちを相手に相対取引的に本屋さんを営むことができるわけです。 僕は「買いたい本を売ろう」と言っています。自分が買って読みたい本を、自分で売って、もっとほかの人にも読んでもらう。 ―― この構想は、2年前にPASSAGEを始めたときからあったのですか? 鹿島:だんだん、こういう形がいいんだろうな、と発見していきました。 PASSAGEを始めるときは、自分の所蔵本を売りたい人が棚主になると思っていたんです。ところが、違った。本が好きな人たちが、自分が読んでおもしろかった本を棚で売っていて、所蔵本に限らず、新刊を仕入れて売っていたりする。意外でしたが、これこそ書店としてもっとも長続きする形態なのだと気づきました。 ―― シェア型書店の「システム」を貸し出すという新しい形によって、PASSAGEの全国展開が始まるわけですね。