作家として多数の連載を抱え、4つのシェア型書店をプロデュースし、横綱審議委員に就任…超多忙の仏文学者・鹿島茂が次にたくらむ「出版業界との『連帯』」とは何なのか
閉店したフランス語書籍専門店をシェア型書店に
鹿島:今度、東京で4号店も出すんですよ。 ―― なんと。どこにですか? 鹿島:飯田橋の日仏学院内でフランス語の本を売っていた書店「欧明社 リヴ・ゴーシュ店」が、採算が取れなくなったということで、2021年10月に閉店してしまったんです。コロナ禍もあるけれど。富士見町の本店も2022年2月末に閉店・廃業しました。 でも、フランス語の本の書店がないと、東京で暮らしているフランスの人たちは不便でしょう? だから、日仏学院を運営するフランス大使館としては、ぜひフランス語書籍専門店を設置し続けたくて、入居する書店を探したのですが、どこも入らない。当たり前ですよね。だって儲かってないんだもの。 そこで、やってくれませんか、と、うちに依頼がきたわけです。先ほどお話したSOLIDA(連帯)のシステムを使えばなんとかなるんじゃないか、と思っています。 ―― いつごろオープンの予定ですか? 鹿島:キャトルズ・ジュイエ (14 juillet)、7月14日の前には始める予定です。フランス語の本に限定せず、フランス関係の本およびグッズならなんでも置いてあるシェア型書店にするつもりです。 ―― 店名は決まっているのですか。 鹿島:「パサージュ・リヴ・ゴーシュ」という名前です。元々あった「欧明社リヴ・ゴーシュ店」の「リヴ・ゴーシュ」は継承してほしい、と、フランス大使館から希望されたので。リヴ・ゴーシュは、左岸という意味です。お堀の流れに向って左岸ということのようです。 ―― 日仏学院がある界隈は、本の街・神保町のように本好きが集まるエリアではないので、お客さんを集めるのはこれまでより大変そうですね。 鹿島:採算のとれない事業をどうやってやるかっていうケースの実験例になると思います。これからの日本の課題だと思いますよ。人口が減少するのだから、書店に限らずあらゆる事業がこれから採算がとれなくなる。 書店減少については、経済産業省がプロジェクトチームを設置して支援を検討していますが、公的資金を導入すると人は努力しなくなる。民間の力で、採算が合わないものをどうやって採算を合わせるようにするか、っていうのが日本の資本主義の課題だと思います。 ―― それにしても4店舗目とは驚きです。これほど店舗数を増やしているシェア型書店はほかにないのでは。 鹿島:これから大手資本が同じことをやろうとすると思うけど、たぶん失敗するでしょうね。 ―― なぜでしょう。 鹿島:先ほどお話したように、シェア型書店って、骨董品屋と同じで、基本的に相対取引なんです。棚の個性や特徴に固定客がつく。一般の書店のような不特定多数対不特定多数の商売と本質的に異なるのです。だから、大量に物を動かす大手資本には向いていません。 こうしたシェア型書店の基本は、『デパートの誕生』(講談社学術文庫)に書いたことです。お客さんたちを、まず、棚に来させる。そのための戦略は、『デパートの誕生』が参考になると思います。 ―― 『デパートの誕生』は、ブシコー夫妻のデパート創業記であるわけですが、鹿島さんのPASSAGE創業期を書くご予定はないのですか? 鹿島:今のところ特に決まってませんね。書いてもいいですよ(笑)。