しづ心なく…花の散るのもオートファジー 奈良先端大など仕組み解明
ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ 平安の歌人、紀友則(きのとものり)が詠んだ一首。古今和歌集に収められ、小倉百人一首でもお馴染みだ。「日の光がのどかに降り注ぐ春の日に、桜はなぜ、落ち着いた心もなく、散っていくのだろう」といった意味だが、その答えは令和の世に出た。「オートファジーが働いているから」。細胞内の老廃物を細胞自ら分解する仕組みで、日本人がノーベル賞を受賞したことで知られる。これが、花が散る仕組みまでも握っていることを、奈良先端科学技術大学院大学、理化学研究所などの研究グループが解き明かした。
細胞の重要なメンテナンス機能
オートファジーは、細胞内の古くなったタンパク質や細胞小器官を、細胞自ら分解(自食作用)して再利用する仕組み。真核細胞に備わり、細胞内を浄化し、またアミノ酸などの必要な分子を作って細胞を存続させている。動植物が健康を保つために欠かせない、細胞の重要なメンテナンス機能の一つだ。老廃物は時間と共に何となく壊れていくのではなく、細胞が積極的に壊している。ギリシャ語でオートは自分、ファジーは食べるの意。東京工業大学栄誉教授の大隅良典さんが1988年に酵母のオートファジーの観察に成功。93年に関連遺伝子14種類を特定し、2016年にノーベル生理学・医学賞を単独受賞している。
動物のオートファジーでは、細胞内に二重膜でできた小胞「オートファゴソーム」ができ、古いタンパク質などを取り込む。これが酵素の入った小器官「リソソーム」と融合し、中身が分解される。がんや神経変性疾患などさまざまな病気を抑え、また発生や分化、老化、免疫の仕組みで重要な役割を持つ。一方、植物ではオートファゴソームが水や栄養素、廃棄物などを貯蔵する「液胞」と融合し、中身が分解されている。
植物では、生涯にわたり体を作り続けることからも、オートファジーが非常に重要だ。穀類や花卉(かき=花の咲く草)植物で、オートファジーを制御する遺伝子が非常に多いことが分かっている。また、花びらが古くなる過程で細胞小器官などが液胞に取り込まれ、部分的に分解される様子も観察されている。このため、花が散るのにもオートファジーが働いているとみられてはきたが、未解明だった。