しづ心なく…花の散るのもオートファジー 奈良先端大など仕組み解明
花が咲くことの研究は多いが…いざ実験
そこで奈良先端大先端科学技術研究科准教授の山口暢俊さん(植物生理学)らの研究グループは、実験によく用いられるモデル植物のシロイヌナズナを使って研究した。山口さんは「なぜ桜が散るのだろうかと、思いませんか。この基本を解明したくて、研究を始めました」と語る。私たちも「考えてみると、いったいどうして」と不思議に思うことが、先端研究の現場のモチベーションになっている。花が咲くことに関する研究は多い一方、その後に起こる現象はさほど研究されてこなかったという。
注目したのは植物ホルモンの一種「ジャスモン酸」だ。葉が虫に食べられると合成され、他の部分に移って虫が苦手な物質を作り被害拡大を抑えるという、面白い物質。高校の生物の教科書にも載っている。老化を促す機能もあり、これが作れない変異体は花が散るのが遅いことから、鍵を握っていると考えられた。 普通のシロイヌナズナを調べると、散る直前の花びらの根元に、ジャスモン酸に加え、物質を酸化し損傷させる“老化物質”の活性酸素もたまっていた。一方、ジャスモン酸を作れないようにした変異体では、花びらの根元にジャスモン酸がたまらない上に、活性酸素も明らかにたまりにくくなっていた。
花びらの根元の細胞を顕微鏡で観察した。普通のシロイヌナズナでは、花が散る直前に不要物が全て分解され、液胞に何も残っていなかった。しかし変異体では液胞に不要物がみられ、新陳代謝に異常があることが分かった。正常ならば花が散る過程で、オートファジーが働いていることがうかがえた。
「ジャスモン酸」引き金、遺伝子が次々に働き…
次に、花が散るまでの遺伝子の働き方を調べ、次のような過程を解明した。(1)花が咲く頃、花びらにジャスモン酸が作られ始め、たまっていく。(2)これを受け、花びらの根元で、ストレスへの応答に関わるとされる「ANAC(アナック、エーナック)102遺伝子」が働く。(3)これを受けてオートファジーを制御する遺伝子が働き、花が散る。