しづ心なく…花の散るのもオートファジー 奈良先端大など仕組み解明
また、オートファジーを制御する遺伝子の変異体では、花が散るのが遅くなった。遺伝子を花びらの根元で人工的に作らせてオートファジーを起こし、花を散らすことにも成功した。
普通のシロイヌナズナと、ジャスモン酸が働かない変異体を比べた。オートファゴソームに関わる遺伝子が作るタンパク質に、目印として緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合させて使った。普通の株では、花が散る時期が近づくとオートファゴソームがいったん作られ、GFPの蛍光が増加。その後、散る直前にオートファゴソームが液胞へ移り、中身とともに分解され、蛍光は見えなくなった。一方、変異体では、花が散る直前のはずの時期を過ぎても蛍光が見え続けた。オートファゴソームがたまっており、つまりオートファジーが起こっていないことを示している。
一連の結果から、花が散るのは、ジャスモン酸を引き金とするオートファジーの仕組みによることを解明した。研究グループは奈良先端大、理研、トリニティ・カレッジ・ダブリン(アイルランド)、かずさDNA研究所、名古屋大学、中部大学で構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に2月6日掲載され、奈良先端大などが同8日に発表している。
お花屋さんもお客さんも喜ぶ成果に
ただ、今回の成果をもってしても、素朴な疑問が残る。花が咲くのは、虫を引き寄せて受粉するためとされる。ではなぜオートファジーで、わざわざ花を散らす必要があるのだろう。放っておくわけにはいかないのか。山口さんに尋ねると「はっきりとは分からないが…要らなくなった部分は切り落としておかないと(その部分に余計に)栄養を取られてしまうからでは。栄養を回収して糖分などを体の他の部分に送ってから、花が散っているのだろう」との見立てを語ってくれた。
今回、直接解明したのはシロイヌナズナだが、多くの花が同様の仕組みで散っていると考えられるという。山口さんは「他の植物でも検証を進めたい。また、実際に栄養を回収するところも確認できれば、花が散る理由の理解が深まりそうだ」と、研究の展望を語る。 自然界の素朴な疑問を解いたこの成果は、私たちの知的好奇心を満たしただけでなく、将来的には農芸分野に役立ちそうだ。例えばオートファジーを遅らせることで花が散るのを遅らせれば、産地から離れた場所の花屋さんは助かるだろう。お客さんも買ってから長期間、花を楽しめそうだ。農作物でも、収穫期を調整して効率化を図るといった活用が考えられるという。
日本人は自然の情景を数限りなく文学の題材にしてきたが、現代科学の目で見ると、その味わい方も変わってくるのでは。折しも、お花見シーズンが目前だ。今年は桜を眺めつつこの研究成果を思い起こし、オートファジーについて考えることになるかもしれない。ただ、それでお酒やお重がうまくなるかマズくなるか…筆者は責任を持てないが。 (草下健夫/サイエンスポータル編集部)