コーチングで最初に取り組むのは「現実的な自己」か「理想的な自己」か? 【原文】Coaching the real self vs ideal self-which first?
まず理想的な自己に焦点を当てることで、現実的な自己に必要な学習と変化を成し遂げるためのマインドセット、モチベーション、リソースが引き出される。
理想と現実の対立
コーチングセッション、そしてコーチングプログラム全体においても、私たちはクライアントが提示した克服すべき課題や解決すべき問題から始めることがほとんどである。最初に示される課題や問題は、職場で発生したもの、360度評価で明らかになったこと、上司やチームとの関係から生じたものなど様々だ。しかし、それはコーチングの最初のステップとして本当に一番良いのだろうか? トニー・ジャック、アンジェラ・パサレッリ(米国コーチング研究所(IOC)リサーチディレクター)、リチャード・ボヤツィス(IOCソートリーダー)による2023年8月の論文「When fixing problems kills personal development: fMRI reveals conflict between Real and ideal Selves(問題解決が自己啓発を妨げるとき:fMRIによって明らかになった現実自己と理想自己の対立)」は、課題から始めるのが最善ではないことを論証している。その基礎となっているのは、2013年の「肯定的感情アトラクタ(positive emotional attractor、以下「PEA」)」と「否定的感情アトラクタ(negative emotional attractor、以下「NEA」)」という観点から行われた「理想自己」と「現実自己」に対するコーチングのfMRI(機能的MRI検査)研究である。 行動変容を進めるには自覚と自己認識を高める必要があることは、誰もが認めている。しかし自己は単純な一枚岩ではない。カール・ユングは自己の中にはペルソナとシャドウが存在するとし、人間性心理学を提唱するカール・ロジャーズは人間には理想自己と現実自己があり、両者の間に矛盾があると指摘している。では、コーチングの対象をどちらの「自己」にするかでどのような違いが生じるのだろうか?