日本人女性初、8000メートル超の全14座を制覇 「固定観念ひっくり返したい」挑戦続ける看護師登山家
地球上には標高8千メートルを超える山が14座ある。福岡県大野城市の登山家、渡邊直子さん(43)は10月、日本人女性として初めて、その全てを制覇した。20代半ばからヒマラヤに通い続け、8千メートル峰に挑戦すること30回。「8千メートル峰は生活の一部だから、これからも登り続ける」と語った。 【写真】14座目としてシシャパンマ登頂を果たした渡邊直子さん 10月9日午前8時半、最後の1座となったシシャパンマ(中国、8027メートル)の頂に立った。 「特別な感慨みたいなのはなくて。いつもの登頂の瞬間と一緒だった」。淡々と振り返ったが、昨年の挑戦では雪崩に巻き込まれ、シェルパ(登山の案内人)に掘り出されて命拾いした。酸素濃度は平地の3分の1、雪と氷と岩の世界で、何度も死を覚悟した。 それでも、登り続けるのは「素の自分に戻れる、新しい自分を発見できる場所だから」。世界中から集まってきた登山家やシェルパと、家族のように数週間を過ごすベースキャンプの楽しさ。極限の中で知らなかった自分の一面を発見する驚き。そんな時間が好きでヒマラヤに通い続けた。 小学4年生の時、本紙記事をきっかけに参加した地元のNPO法人「遊び塾ありギリス」(現在は解散)の企画で冬の八ケ岳に登り、雪山に魅了された。アジア各国の子どもたちと中国の無人島キャンプや内モンゴルの草原縦走に参加し、冒険の楽しさを知った。 もともとは引っ込み思案で、小中学校ではいじめにも遭った。「学校以外に自分の居場所があったことで救われた」。人と違っていい、トラブルも楽しもう-。そんな周りの大人たちに見守られ、チャレンジを重ねる中で自信がついた。 初めて8千メートル峰に登頂したのは2006年のチョーオユー。エベレスト、マカルーと登り続け、19年には日本人女性初の7座を制覇した。「せっかくなら14座を狙おう」。普段は看護師として働き、これまで投じた資金は1億円近く。スポンサーや寄付も募り、22年には一気に6座を登頂した。 夢は自身が体験してきたように、たくさんの子どもたちにヒマラヤで冒険してもらうこと。そして疲れた大人たちに大自然の中で癒やされてもらうこと。昨年からはヒマラヤを案内する旅を企画し、この年末年始も20人を連れていく。 「ヒマラヤは誰もが楽しめる場所。限られた登山家だけが行けるという固定観念をひっくり返したい」。渡邊さんの挑戦は続く。 (新西ましほ)