生理用品の歴史は、女性の社会進出の歴史だった!月経が“禁忌”から“当たり前”になるまで
『生理用品の社会史』の著者、田中ひかるさんへのインタビュー第2弾は、生理用品の進化を妨げてきた月経タブー視にフォーカス。神秘的領域だった月経が、男性の畏怖感を刺激し、月経禁忌とみなされたのはなぜなのか? 月経禁忌にまつわる驚きの慣習や、使い捨てナプキンがもたらした変化など、現代の私たちの生活につながる月経観の歴史を解説していただきました。 【写真】世界の生理事情
「タブー」の語源は、実はポリネシア語の月経?
――月経は、古くから世界各地で「穢れ(けがれ)」とされてきたことが田中先生の著書『生理用品の社会史』では明かされています。なぜ、人々から忌み嫌われるようになったのでしょうか。 田中先生:現代でも使われる「タブー」という言葉の語源は、ポリネシア語で月経を意味する「タブ(tabuまたはtapu)」と言われています。月経や経血に対する「タブー視」「不浄視」、言い換えると「月経禁忌」は、世界各地で見られます。 月経がタブーとされるようになった起源については、畏怖心の裏返しだとか、経血が病気を媒介することから危険視されるようになったとか、諸説あります。 ――月経禁忌にともない、さまざまな慣習が作られたそうですね。 田中先生:月経禁忌にともなう慣習は、つい最近まで世界各地に存在しており、現在もそうした慣習が見られる地域があります。例えば、ネパールの一部地域では、月経中の女性は穴ぐらや小屋に隔離されます。その間に猛獣に襲われた女性や、蛇にかまれて亡くなった女性もいます。暖をとるために火を焚き、煙を吸って亡くなる事件も何度も起きたため、法律で禁止されましたが、長い間の慣習は根強く残っています。こうした地域では、生理用品が普及していません。月経中は学校へ行けないという地域も世界各地にあります。
日本における月経禁忌の歴史は?
――日本においては、月経禁忌はどのように広まったのでしょうか。 田中さん:歴史学者の成清弘和さんや藤田きみゑさんの研究に見られるように、日本における月経禁忌は、権力者が案出、もしくは大陸から移入したのではないかという説が有力です。その後、室町時代に大陸から伝来した「血盆経(けつぼんきょう)」によって月経不浄視が一般社会に広まりました。血盆経とは、10世紀ごろに中国で成立した偽経です。女性は月経や出産の際に経血で地神や水神を穢すため、死後は血の池地獄に堕ちるが、血盆経を信仰すれば救われる、と説かれました。 血盆経は、江戸時代には女性信者の獲得を目的として、唱導が行われました。近代以降も、血盆教信仰の強かった地域で、より多くの月経禁忌に伴う慣習が確認されています。