<ソチ五輪>上村愛子、母の前でラストラン
女子モーグルで悲願のメダル獲得を狙った上村愛子(北野建設)は惜しくも4位に終わった。ゴール直後にはゴーグルの奥で涙、涙。しかし、それは4年前のバンクーバー五輪の涙とは違った。5度目の五輪で、初めて充実感の涙を流すことができたのだ。 「滑り終わった瞬間、わーっと涙が出ていました。決勝ラウンドで3本すべて全力で滑れたという満足感と、五輪という舞台で良い滑りができて良かったという気持ちと、こういう気持ちになるのはこれが最後なんだなという気持ちで…」 目の前には、女手ひとつで育ててくれた母・圭子さん。5大会連続で会場に足を運んでくれた最愛の母もまた、泣いていた。「頑張っている姿を見ることができて幸せです。予選突破で十分だと思っていましたし、決勝に進めるとは思っていませんでした。よく頑張ったと褒めてあげたい。そして、ありがとうと声を掛けてあげたいです」。そう言って感無量の面持ちを浮かべた。 バンクーバー後の4年間は紆余曲折のある苦しい日々だった。4度目の五輪であるバンクーバーで4位に終わり、現役を引退するか競技を続行するかで悩んだ上村は、バンクーバー直後から1年半の間、休養。そのころの上村の心理状況を圭子さんは「自分には何ができるのだろうということを、一生懸命探していた」と説明する。 だが、2011年の冬のある日、上村は母に現役復帰することを告げた。「自分はモーグルでしか自分を表現できない。モーグルのバーンが自分の居場所だと思う。体が動かなくなったわけではない。だからちょっと頑張ってみようと思う」 こうして迎えたソチ五輪。母の目の前で戦ったラスト五輪は格別のものだった。4位という結果も、ゴール後の涙もバンクーバー五輪と同じだが、意味合いはまったく違っていた。それは成長の証だった。 決勝3回目、通称スーパーファイナルで、上村は6人中5人が滑り終えた時点で3位につけ、祈るような表情で最後の1人、バンクーバー五輪金メダリストの女王ハナ・カーニー(米国)を見つめる。