世界はまだ、真の「カツカレー」を知らない。その発祥から、進化し続ける“ネオ”な注目店まで解説!
ワインと抜群に合う、元祖にして究極の一皿/東京「銀座スイス」
「今や英国では『カツカレーは国民食である』とまで言われています。ただ日本人としては、カツ・カレー・ライスの三位一体を味わう“本来のカツカレー”も海外の方に知ってほしい。まず訪れるべきは、発祥の店である老舗洋食店『銀座スイス』でしょう。カツカレーの誕生日は1948年8月14日。プロ野球選手で元巨人軍の千葉茂氏が『カツレツとカレーを一緒に煮込んで出してくれ』と頼んだことが始まりです。現在も『千葉さんのカツレツカレー』と銘打った逸品を提供していて、これが素晴らしくおいしい。ワインにマッチする軽やかな味わいで、カツカレーは本来、こんなにも上品な料理だったのかと驚くこと請け合いです」
スパイスブームを経て誕生した“ネオ・カツカレー”
「始まりの味」を知った後は、「最新鋭のジャパニーズ・カツカレー」を食してほしいとカレー細胞さんは熱弁をふるう。 「実は日本では2000年代に、カツカレーを筆頭としたザ・王道メニューから“離脱”する、スパイスカレームーブメントが起こりました。万人に好まれる味付けとは真逆を行く、ホールスパイスなどをふんだんに使った、刺激的でマニアックなメニューが次々と生み出されていったのです。しかし、2020年に入ったあたりから“原点回帰”が始まります。王道を否定するのではなく、スパイス使いなど新たな技術を加えながら、カツカレーのアップデートを試みるシェフたちが現れるのです。彼らの挑戦が結実した逸品を、私は”ネオ・カツカレー”と呼んでいます。単にカレーライスにカツを乗せた足し算の発想ではなく、カツ・カレー・ライスのどれもが引き立つよう、バランスを細かく調整しているのも特長です」
圧巻かつ繊細なラムカツとだしカレーの出会い/大阪・福島「シャンカラ堂」
カレー細胞さんが「これを食べずしてネオ・カツカレーを語ることなかれ」と言い切る筆頭が、大阪「シャンカラ堂」の『ラムカツカレー』だ。 「2022年にオープンした店で、オーナーシェフの小峯充靖さんは、和食店、トンカツ店、カレー店で修業を積んだ、いわばカツカレー3大要素のプロフェッショナルです。大ぶりのラムカツが鎮座するビジュアルに圧倒されますが、味わいはとても繊細です。ごく薄い衣のサクサクッと小気味いい歯ざわり、桃色の断面からあふれ出すジューシーな肉汁、そこへ鯛の頭から取っただしやインドスパイスをきかせたサラサラのカレールーと、粒だったお米が品よく混ざり合う……。カツカレーは胃に重たい、という先入観を見事に吹き飛ばすバランスで、スルスルと完食できてしまいます」