「生理周期」に合わせて運動するメリット【専門家が解説】
ポイントは「症状管理」
だからこそ、アスリートのサイクルマッピングの核となるのは症状管理。チームスポーツにおいて「30人の選手たちが各自の生理周期に合わせ、それぞれ別のトレーニングをするというのは非現実的な話です」と語るのは、健康管理アプリ『Orecco』の研究員で女性アスリートを担当するジョージー・ブルインヴェルス博士。「そもそもアスリートには、いつでも最高のパフォーマンスを発揮できる状態でいてもらわなければなりません」 それこそまさに、ブルインヴェルス博士のチームが現在イングランドサッカー協会と共に実現しようとしていること。イングランドサッカー協会の女子選手担当パフォーマンスドクター、リタン・メフタ博士は「私たちは、症状管理をサポート・最適化することで、選手1人ひとりが生理周期の全ステージでトレーニングを続けられるようにしたいと思っています」と話している。 このプロジェクトの当初の目的は、無月経(生理の喪失または停止)などの警告サインを見逃さないようにすることだった。でも、メフタ博士によると、各自の生理周期、症状、その症状が現れるタイミングに対する選手たちの理解は確実に深まっている。これは実に頼もしいこと。 絶妙なタイミングで鎮痛剤を服用し、生理中の腹痛を未然に防ぐのは症状管理戦略の1つ。以前イギリス版ウィメンズヘルスの表紙を飾ったリア・ウィリアムソン選手は、2022年の欧州選手権で実際にこの戦略を使っている。症状管理戦略の中には、もっと地味なものもある。「私が担当している選手の中には、生理前になると必ず、あらゆることを考えすぎてしまう人がいます」とブルインヴェルス博士。 「いろいろと試した結果、生理前は、いつもと違うプレイリストを聴きながらトレーニング入りするというのが彼女にとってはいいことが分かりました」。些細なことに思えるかもしれないけれど、たった1%のスピード/スキル/パワー差が勝敗を分けるアスリートの世界では非常に重要なこと。 もちろん、あなたにとって効果的な戦略が他の人にも効果的とは限らない。ブルインヴェルス博士によると、その事実を肝に銘じておくことは万人向けのアドバイスに従うことより大事。「いついつは気分が悪くなるはず、いついつはトレーニングを控えるべき、と人に言われ続ければ、誰でも気が滅入りますよね」 しかも、これは“自己成就的予言”になる(例:この時期は気だるくなるはず、と言われると実際に気だるい感じがしてくる)から問題。運動技能に対する“ノセボ効果”(プラセボ効果の対義語)を対象とした研究では、自分の生理に関するネガティブな情報を受け取ると、その影響が疲労閾値や運動能力にも波及して、アスリートの調子が悪くなることが分かった。