アスリートを襲う破産の危機。横領問題で再燃した資金管理問題。「お金の勉強」で未来が変わる?
年俸360万円のサッカー選手は年収300万円の会社員より手取りが少ない
アスリートにリサーチしてわかったのは、経費の分類についてもよくわからないまま確定申告だけをしているケースが多いということだ。 「豪快にお金を使って何でも経費にしているかというと、今の選手たちはそんなこともない。自分たちが個人事業主である意識がないため、自分のお金を守ったり、増やしたりという意識も薄いんです」 小池氏のシミュレーションによると年俸360万円のサッカー選手と年収300万円の新卒会社員を比較した場合、収入から必要経費、社会保険料、所得税・住民税を引いたサッカー選手の手取額より、社会保険額、所得税・住民税を引かれる会社員の方が手取額が多くなる場合がある。 サッカー選手の必要経費はお金を使った分だけ控除の対象となるのに対し、会社員の給与所得控除は、お金を使わなくても控除される(経費になる)ためである。 サッカー選手の年俸360万円は少ないと感じる人も多いかもしれないが、先日引き上げられた2026年から適用されるJリーグの選手最低年俸は、J1で480万円、J2がこの360万円、J3では240万円となっている。
「お金の勉強」でアスリートの未来が変わる?
こうした現実を踏まえ、小池氏と小川直純氏、それぞれ税務と保険の専門家である2人は、アスリートを顧客に持つ他に、アスリートの「お金」に対する意識を変え、現役時代から自分の一生を考えたライフプランを考えるきっかけ作りが必要だと考えた。 「お金の勉強会」は、この出会いから生まれ、少人数の集まりながら「実は不安に思っていた」「知らなすぎて怖いと思っていた」という切実な危機感を持つアスリートの口コミで徐々に輪が広がっていった。 「私にとって憧れの存在であるサッカー選手たちに『四六時中お金のことを考えろ』とか『トレーニングやコンディショニングの時間を削って将来の準備をしろ』と頭ごなしに言うつもりはまったくないんです。競技以外の1%でいい。空いている時間にお金のことを考えてほしいんです。その1%の質を高めていくことで、スタジアムで輝いていたそのままの輝きを次のキャリア、将来につなげることができる。すごい人たちにはすごいまま、キラキラしたままでいてほしいんです」 日本では、「アスリートは競技に集中すべき」との考えが根強く、現役中にビジネスを始めたり、経済的な活動を行うと批判の対象になる傾向が未だにある。しかし、プレイヤーとしての年俸だけで一生安泰という選手は一握りで、その一握りの選手も高所得者ゆえの落とし穴に落ちてしまうことは、すでにあげたとおりだ。 小池氏や小川氏のような専門家がサポートに回り、アスリート自身が自分のお金に対して主体性を持って関わるようになれば、引退後のキャリアに対する不安を取り除くことができ、それがパフォーマンスの向上につながる可能性もある。 「サッカーはもう世界に出ていくのが当たり前の時代。MLBやNBAでプレーする日本人選手も増え、海外の税制も理解する必要があります。また、怪しいもの含めて投資商品が乱立して資産形成を取り巻く環境は複雑化しています。国内でもプロリーグが数多く誕生していますが、新しいリーグは、契約面の整備が追いついていない可能性もあります。プロ選手やそれを目指す学生、ご両親も含めて、人生設計を考えなければいけない時代になっていると思います」 「プロになること」ではなく、「プロで活躍すること」を目標にせよというゴール設定のアップデートの必要性はよく聞かれるようになったが、プロアスリートとしてのキャリアより引退後の人生の方がずっと長いことを考えれば「プロキャリアを終えた後の活躍」を見据えるのは当然なのかもしれない。 <了>
文=大塚一樹