侵攻から2年 終わりの見えない戦闘 ウクライナ人の領土断念という「不確かな選択肢」の意味 #平和を願って
同時に、領土を諦めるという選択肢がそもそもないとの見方をする人もいる。 ボランティアを続けてきた前出のマキシムは、「人々の感情」と「実現可能性」の違いを指摘した。 「人々が『諦めるしかない』と考えてしまうのは仕方がない。死者もたくさん出ているし、戦争を止められる『魔法』がほしいと思ってしまうから」 そのうえで自身の意見を語った。 「仮にウクライナが『領土を諦める』と言っても、ロシアが戦争をやめるだろうか。僕の意見は、今ロシアは勝っているから、プーチンは絶対やめないように思う」 たとえ一時的に停戦したとしても、再び侵攻してくる可能性があると懸念する。 「みんな死者を減らしたいと思っている。現実の問題としては『どう思っているか』ではなくて、『死者を減らせる道具があるか』なんだ。死者を減らすには、欧米からもっと武器を得て勝つことしか方法はないと思う」 アレクサンドルも、簡単にこの戦争が終わらないと考えている。戦いの本質は領土ではないからだと話す。 「ロシア政府の狙いは、領土ではなく、ウクライナを服従させること。だから、ヨーロッパがどうウクライナをサポートするかが関係してくる。戦争を終わらせるには、プーチンがいなくなることと、欧米の支援の両方が必要だ」
ウクライナ政府内部の問題もある。長年、ウクライナでは汚職の問題があり、今後の方針をめぐっても大統領と軍総司令官の対立が取りざたされ、軍総司令官が今月、解任された。マキシムは「私たちはロシアと戦っているのに、なんで内輪で対立しているのかわからない」と残念そうに言う。 マリウポリ出身のカテリーナは、彼らとは少し違う感情を持っていた。こう言うのは本当につらいけれど、とためらいながら思いを吐露する。 「たくさんの人たちがもう十分苦しんだし、若い人が毎日死んでいる。戦争を終わらせないといけないし、それには領土を諦めるしかないと思う。もし、そうなったら母はマリウポリに、私はキーウに残ることになると思うけれど」 そして、言葉を継ぐ。 「絶対に領土を諦めないと主張しているのは、中部や西部など、直接的な戦闘があまりない場所の人たちです。マリウポリを含めた東部ドンバスなど、ロシアに占領された地域に近い人たちのほうが諦めるべきだと思っている。生きるか死ぬかという経験をしているし、戦争の現状がどれだけひどいかを知っているから」