侵攻から2年 終わりの見えない戦闘 ウクライナ人の領土断念という「不確かな選択肢」の意味 #平和を願って
アレクサンドルは故郷のドネツクの知人たちと今も連絡を取っているが、彼らの話では街は「マシ」になったという。 「現在のドネツクは(2014年の南部クリミア併合後、親ロシア武装勢力が一方的に独立を宣言した)『ドネツク人民共和国』ではなく、“ロシア領”になった。けれど、政治や各種制度はまだ完全にロシアの統治のやり方になっておらず、中途半端な感じらしい。戦争が始まった頃は、断水して水が来なかったけれど、今は2日に1回は給水が来るみたいだね」
ドネツク市では今もロシアとの交戦状態が続く。基本的にはウクライナ軍による攻撃だが、ウクライナかロシアかどちらの攻撃かわからない場合もあるという。住民は苦しい思いを抱えている。 「ドネツクにとどまりたい人と、ウクライナでもロシアでもどちらでもいいから安全な場所に逃げたい人の両方がいるよ。でも若い男性はロシア軍に徴兵されてしまうから、ずっと家の中で隠れていると聞いた」
領土を諦めるという「選択」が意味すること
2年間続くこの戦争。国連によると、ウクライナの市民だけで少なくとも死者1万人(ロシアによる占領地での死者は不明)、報道によると、兵士ではウクライナ側は3万人から7万人、ロシア側では4万人から12万人の死者が出ているとされる。死傷者ばかりが増え、戦況は膠着しているのが実情だ。 こうした状況のもと、キーウ国際社会学研究所(KIIS)が行う世論調査にも変化が出始めている。「領土は諦めるべきではない」という考えが多数派ながら、「できるだけ早く平和を手にいれ独立を維持するために領土の一部を諦めることもあり得る」と答える人の割合が、2022年12月には8%だったのが、2023年12月には19%と2倍以上になった。 この数字について、アレクサンドルは深層的な世論が反映されていない可能性を指摘する。 「実際は『諦めるしかない』と考えている人はもっと多いと思う。でも、社会的に認められている答えを言ってしまう。調査の数字は慎重に扱わないとね」 国として一致団結してロシアと戦おうという状況の中、それに反対する意見や疲弊を口にするのは憚られる雰囲気があり、世論調査に正確に反映されていないというのだ。