「脳トレ」で認知症を予防できるとは言えない理由。人生の時間を無駄なことに使っている暇はない【山田悠史医師】
約3000人が取り組んだトレーニング研究
例えば、ACTIVE試験という研究では、2832人の高齢者を対象として、10週間にわたる推論力、言語記憶、処理速度のいずれかのトレーニングプログラムを行うグループと、何もしないグループに分けています。さらに、このプログラム参加者は1年後や3年後にも追加のトレーニングを受けています。このトレーニングプログラムでは、インストラクターが60-75分にわたり、その能力に特化したトレーニングを参加者に施したようです。
その結果、推論力のトレーニングを受けたグループは、日常生活で必要な複雑な作業(例えば買い物や家事、金銭管理など)を行う能力について、5年後の時点で改善が見られていたことを報告しています(参考文献3)。これは一見有望に思えますが、認知症の発症率について見てみると、残念ながら差はありませんでした(参考文献4)。つまり、長い目で見て認知機能は部分的には向上していたものの、認知症そのものの予防にはつながらなかったようなのです。
認知トレーニングに食事や運動指導をプラスしても効果なし
次に、FINGER試験という研究では、1260人の高齢者に対して、認知トレーニング以外にも食事の改善、運動、血管リスクの管理を行いました。その結果、2年後に確認された認知機能テストのスコアが何も行わなかったグループよりも改善しました(参考文献5)。しかし、その違いは小さく、やはり長期的に認知機能低下を防ぐとまで言える結果ではありませんでした。認知トレーニングだけでなく、他のアプローチまで組み合わせたにもかかわらずです。 さらに、別の研究では、主観的に記憶力の低下を感じている1525人の高齢者に対して、身体活動、認知トレーニング、栄養アドバイスを行いました。この研究では3年後に認知機能を確認しましたが、残念ながらこれらを行ったグループと行わなかったグループの間で差は見られませんでした(参考文献6)。 これらの研究から、特定の認知トレーニングが短期的な効果をもたらす可能性はあり、そのような期待ができるものの、長期的な認知機能の向上という点での効果は限定的で、「認知症予防」にまでは至らないのではということが見えてきます。