「アジアン・アート・ビエンナーレ 2024」(国立台湾美術館)レポート。不確かな未来に対処するための、深い潜水の実践
都市の風景と移民労働者の境遇
1階に戻り、美術館の奥へと進むと屋外に面した「ギャラリーストリート」という開けたスペースが広がる。ここには都市の生活や移住・移民を扱った作品が集められている。 垂れ幕のように天井から吊るされたカラフルな作品群は、韓国のイ・ウソンによる新作。バイクに乗る人や道路の標識、食べ物など、作家が台中と台北を旅して出会った景色を描いた絵がパッチワークされて並べられている。色鮮やかなこれらのテキスタイル作品を取り囲むようにして展示されているモノクロの作品は、韓国の都市や路上で肩を組みプロテストを行う人々を描いたもの。その場所で営まれる生活とそこで生きる一人ひとりへの温かいまなざしや連帯が感じられる。 ドイツ系フィリピン人アーティストのジャスミン・ヴェルナーは、国外で働くフィリピン人労働者が故郷の家族や愛する人に送る小包「Balikbayan Boxes」をモチーフにしたプロジェクトに取り組んでいる。今回は、台湾の移民労働者シェルターと協働してコーヒーやチョコレート、シャンプーといった食料品や日用品などボックスに詰め込みたい品物を選び、それらを積み上げて彫刻作品として展示している。積み上げられた日用品は、実際にフィリピンへ送られるという。背後の展示壁に貼られているのは、フィリピン政府が公開している現在募集中の求人リストだ。 こうした作品群と響き合うように、トルコにルーツを持つフランスのアーティスト、ニル・ヤルターの1992年の映像作品《I AM》も紹介されている。本作は、「I AM」で始まる文章で自身の多層的なアイデンティティを表現した詩と、1970~80年代のフランスやヨーロッパの移民労働者たちをとらえた映像で構成される作品。今回の出品にあたり、台湾で活動するフィリピン移民のヒップホップアーティストであるAr~Em Sicat、Angelito、The Thirdとコラボレーションし、本作のためのサウンドトラックを新たに制作した。数十分に1回流れる音楽が、ノマディズムや人種、民族、労働といった複合的なテーマを持つ作品をさらに多声的なものにしている。