「アジアン・アート・ビエンナーレ 2024」(国立台湾美術館)レポート。不確かな未来に対処するための、深い潜水の実践
5人のキュレーターによる共同キュレーション。35組のアーティストが集う
11月16日、台湾・台中の国立台湾美術館で「アジアン・アート・ビエンナーレ 2024」が開幕した。会期は2025年3月2日まで。 台湾最大の公立美術館である国立台湾美術館の主催により、2年に1度開催されている「アジアン・アート・ビエンナーレ」。9回目の開催となる今回は、「How to Hold Your Breath(息を止める方法)」というタイトルのもと、35組のアーティストによる83点の作品が展示されている。 キュレーションは、台湾のインディペンデントキュレターである方彥翔(ファン・イェンシャン)が国際的なキュレーションチームを招集し、5人のキュレーターによって共同で手がけられた。ファンに加え、アルメニア生まれでパリを拠点とするアン・ダヴィディアン、フィリピンのアーティストでリサーチャーのマーヴ・エスピナ、シンガポールを拠点に活動する韓国のキュレーター、キム・ヘジュ、イスタンブールとパリを拠点とするアスリ・セブンが参加している。
「How to Hold Your Breath(息を止める方法)」が呼びかけるもの
今回のテーマであるHow to Hold Your Breath」は、「息を止めないで」、転じて「期待しないで」という意味を持つ「don’t hold your breath.」というフレーズを反転させ、変化はすぐには訪れないという警告と、それでも存在する希望を示唆している。待ち構える不確かな未来に向けて重要な行為を一時停止することで、「いまこの瞬間」に私たちを固定することの可能性を探る、という意図が込められている。 オープニングに際し行われた記者会見で「2024年のアジアン・アート・ビエンナーレは、集団的なキュレーションモデルを採用し、今日の世界とアジアにおける社会、文化、エコロジー、美学、そしてこれらにおける共生のダイナミクスを探求します」と挨拶した方は、「私たちはたんにキュレーションを行うだけでなく、集団的な作業や議論、交流、交渉の場を生み出す対話を促進するために集まった」と説明し、今回の展覧会では各キュレーター独自の視点を維持しつつ「多声的」なプレゼンテーションを展開している、とした。 さらにテーマについては、「『息を止める方法』は、暴力を永続させる可視性の領域やシステムから退き、新たな主体性が生まれうる不透明性のある空間を創出するための呼びかけとしてとらえることができます。私たちはこれを、不確実でまだ定義されていない未来に直面する前の深い潜水と考えています」と話した。 作品は通常の展示室に加え、1階のメインロビーや「ギャラリーストリート」と呼ばれる展示室の前の空間など、1階と2階の複数の展示空間を使って展開されている。 美術館のメインロビーでは、丹波良徳によるネオンの作品と、台湾原住民プユマ族のアーティスト、ミレー・マファリウによるインスターレションが来場客を出迎える。中国語で「生存を維持するためにやむえず行う作業」と書かれた丹波の作品は、思い思いに休憩する来場客たちの頭上に吊るされており、ユーモラスな状況を生み出していた。 展示エリアに向かうと、入り口ではパク・シュウン・チュエン (白雙全)の映像作品《Breathing in a House》が上映されている。ある日、「この部屋の空気を全部吸うにはどれくらいの時間がかかるだろう?」と考えた作家が、10日間かけて、自室の空気を吸い込んでビニール袋に詰め、部屋中を満たしていく様を映した作品。「恵比寿映像祭2024」でも展示されていたので、見覚えがある人も多いかもしれない。キュレーターの方は、本展の「息を止める方法」というテーマと共鳴するものとして、導入にこの作品を持ってきたかった、と明かした。