「プラモデルはやっぱり面白い」スペシャル 『007/ゴールドフィンガー』公開60周年記念 映画に出演した中で間違いなく世界で一番有名なクルマ物語
実際、最新作であり最終作と言ってもよい「ノータイムトゥダイ」の撮影においてはイタリアマテーラのホテル前に止まるシーン用のホンモノのDB5 2台(うち一台はイオンプロダクション所有のDB5)をはじめ、撮影用レプリカ(といってもちゃんとアストンマーティンが作り、ものすごく速く走ることのできる、中身は最新テクノロジーのつまったDB5。レーザースキャンして型をとったあと、6速マニュアルで300馬力のエンジンを載せたそうだ)が8台(!)、その中には傷だらけになったモデルやガトリング砲部分のアップのガジェットカーと呼ばれるモデル、スタントマンが屋根の上で遠隔運転する、ポッドと呼ばれるモデル、といった、DB5風の車輛が用意された。 そのように今や大掛かりで撮影に用いられているのだが、「ゴールドフィンガー」において最初に登場した時は、アストンマーティン側の対応は大変冷淡なものであったことが知られている。
当初007の制作会社であるイオンプロダクションは、アストンマーティンをボンドカーにしようと思い、アストンマーティン社にボンドカーについての説明をし、協力を依頼したところ、冷たい対応をした広報担当者は「ドクターノー」はおろかヒットしたはずの「ロシアより愛をこめて」さえ観たことがなかったというのだからあきれてしまう。広報担当者としては大失格ともいえる話だが、とにかくこりゃだめだと思った映画プロデューサーは電話をたたき切ったのだという。
アストンマーティンからけんもほろろに断られたため、映画プロデューサーは、やむを得ずよりスマートでスポーティなジャガーEタイプをボンドカーにと、ジャガーに打診したところ、こちらもあっさりと断れられたのだという。まったくアストンマーティンもジャガーも何やってんだよ、と思うような塩対応ではあるが、仮にこの時点でジャガーEタイプがボンドカーに就任したことを考えると、今ほどのいぶし銀のようなイギリスらしい魅力を演じることができたかどうか、そしてジェームス・ボンドというキャラクターそのものにも重みを加算できていたかどうか、ちょっと微妙な気持ちにもなる。