「世界が自然派ワインに『やわらかさ』を求めている」ドメーヌ・タカヒコに聞いた、余市ワインが世界から注目される理由とは?
「ブランド・ノワールは、2013年に貴腐(=ボトリシス・シネレアと呼ばれるカビ)が付いてしまったピノ・ノワールの粒を選り分けておいて、試しに醸造してみたらなかなかおもしろいものができたんです。それ以来、貴腐ブドウは"収穫はしておいて、雨が降って作業できない日にプレス(圧搾)しよう"くらいの気分で造っています(笑)」 グラスに注がれたのは、琥珀色に輝く液体。香りを嗅げばナッツやハーブが漂い、口に含むと紅茶、マーマレードなどの膨らみのある印象が、長い余韻とともに伸びていく......。最後に残る、繊細な出汁の感覚がまた格別だ。そしてフラッグシップとなるピノ・ノワールは、着物の色に使いたいような、淡い紫色がグラスに広がる。イチゴのような華やかさの後にスミレやシダ、そして腐葉土のような柔らかい土の香りが立ち上り、口に含めば、じわりじわりと広がるキノコ、カツオ節、紅茶、香木、梅の香りが、絶妙な出汁感とともに長く長く、口から胃にかけて身体に沁みわたっていく。魚介にも合わせたいし、漬物にもはまるような味わい。優しく繊細さを備え持つ和食にこそ合わせたい、まろやかな世界観だ。 曽我さんは、余市ワインの魅力をこうも語ってくれた。 「先日、世界中の自然派ワインの生産者が集まる『RAW WINE TOKYO』というイベントにも参加しましたが、やはり世界の生産者もワインに"やわらかさ"を求めていることが実感できました。でも、世界の自然派ワインにはまだまだ"複雑さ"が足りない。旨味という複雑な味わいを持つ余市のワインは、これからまだまだおいしさの可能性に満ちあふれていると確信しています」 ドメーヌ・タカヒコ https://takahiko.co.jp 北海道余市郡余市町登町1395 ※畑、ワイナリーの一般見学はおこなっていません。一般の方は畑のそばに「ドメーヌタカヒコ ナナツモリ展望台」が用意されており、そこから畑の眺望を見学することが可能です。 カナイヨースケ フィガロジャポン編集部、WEBグルメ担当。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、グルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。好きなワインのタイプはイタリアをはじめとした日当たり良好系。
photography: Mirei Sakaki text: Yosuke Kanai