考察『光る君へ』23話 宣孝(佐々木蔵之介)が越前に来た!ウニを匙で割ってご馳走する可愛いまひろ(吉高由里子)に「わしの妻になれ」ドンドコドン!
大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか。23話「雪の舞うころ」では、まひろ(のちの紫式部/吉高由里子)と宋の薬師・周明(松下洸平)が急接近! と思いきや、旧知の宣孝(佐々木蔵之介)がついに……。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載23回です。
通事殺人事件
通事・三国若麻呂(安井順平)を殺したのは、朱仁聡(浩歌)ではなかった。 ほぼ事故に近い……テレビ朝日のサスペンスドラマのような死亡理由だった。 源光雅(玉置孝匡)が抱く宋人への不信感。彼の不信感は都から来る国司にも向けられているように見える。最初に賄賂を持ってきたことといい、「介(すけ/光雅の身分)らの意見は、改めてじっくりと聞く」に納得した様子といい、前任の国司は為時(岸谷五朗)とは真逆の人物だったのではないのか。 落ち着いた環境で双方から話を聞いた上で 「その方の越前を思う気持ちはわかった。されど(略)こちらも筋を通さねば、宋人に立ち向かえぬゆえ」 為時の説得と差配に、光雅が反感を抱いた様子はない。 彼の誠実な人柄が功を奏し、通事殺人事件は解決したうえ、国際紛争の危機は回避された。
宋への憧れ
周明(松下洸平)は宋人だった。生まれは対馬だという。 ここで対馬という地名が出てきたことに、隆家(竜星涼)の活躍はやはり描かれるのだなと確信した(けれどそれは、まだ10年以上先の話)。 周明はくちべらしのために実の親に海に投げ込まれ、宋人の船に拾われて大陸に渡った。そこで牛馬のように働かされ、逃亡した先で薬師に助けられて医術を学んだのだと……。 彼の身の上話を聞いてなお、まひろは、 「宋の国は、この国に比べて懐の深い国なのではないかしら」 と、宋への憧れが揺るがない。父と自分の人生に深く強い影響を与えた漢籍のふるさとであり、身分に関わらず才ある者を登用する科挙制度の国。 幼い頃から身分の壁を思い知らされ続ける彼女にとっては、そう簡単には覆らない思いだろう。 松原客館には、多くの書物があるのではと問うまひろに、周明は、 「書物のことは知らないが、陶磁器、香木、薬、織物、酒に食べ物。貂(テン)の毛皮もある」 日本では超高級品なので、まひろは見たことも聞いたこともない。「テンの毛皮?」と聞き返す。 『源氏物語』では、光源氏の恋人の一人・末摘花が、雪の積もった朝に黒貂の皮衣を着ている場面がある。漫画『あさきゆめみし』ファンは、あのインパクトを覚えているだろう。 聴し色のわりなう上白みたる一襲 なごりなう黒き袿かさねて 表着には黒貂の皮衣いときよらに 香ばしきを着たまへり (薄紅色がひどく褪せた一襲(ひとかさね)に、すっかり黒ずんだ袿(うちぎ)を重ねて、その上に黒貂の毛皮の、とても綺麗で香をたきしめたものを着ていらっしゃる) 父を喪い、後ろ盾もなく、すっかり貧乏になった宮家の姫君である末摘花。古びて汚れたものを着ているのだけれど、その上に重ねた黒貂の毛皮だけが美しく豪華だという。毛皮は、宮家のかつての栄華を感じさせるアイテムなのだ。 紫式部が物語の中に登場させた貂の毛皮。まひろもいつか実物を目にするかもしれない。 無邪気に宋への憧れを示すまひろが眩しくなったのか、周明は静かに、 「不要相信我(俺を信じるな)」 が、すぐに思い直して、宋の言葉を知りたいか? と持ちかける。前回のレビューで日本語と宋語を教え合い、恋心がゆっくり育ってゆくのかな? と書いたが、本当にそうなりそうだ。 それにしても、松下洸平の宋語の発音は滑らかだ。かなり本格的に学んだのだろうなと想像する。左利きの吉高由里子が、まひろとして右手で美しい字を書くのも同じく、大河ドラマに出演する俳優はみな物凄い努力を重ねて、映像作品に説得力を持たせている。