ノーベル賞「生理学・医学賞」2015年の受賞は? 日本科学未来館が予想
アリソン博士が発見したのは、戦闘状態になっているT細胞が表面に出しているCTLA-4という分子です。この分子が樹状細胞の表面の分子と握手すると、T細胞は戦闘態勢を解除します。
アリソン博士は、戦闘態勢解除の握手をじゃまするような薬を作れば、がんの治療薬になると考え、長い時間をかけてそうした薬を開発しました。最近になって、日本でも使われ始めています。
本庶博士が目をつけたのは、これとは別の仕組みです。がん細胞が免疫の攻撃を免れるのは、がん細胞が味方のふりをするからです。正常な細胞は攻撃されないよう、表面に「味方だから攻撃しないで」というサインを出します。それがPD-L1という分子です。PD-L1とT細胞のPD-1という分子が手を結ぶと、T細胞は攻撃をやめます。
さらに、近年のアリソン博士の研究によるとこれら2つの治療薬を組み合わせることでさらに効果的ながん治療ができるとされています。 ◎予想=科学コミュニケーター・沈晨晨 (シェン チェンチェン)
遺伝子組換えを狙った場所に確度よく
■設計図を自由自在に、ゲノム編集ツールの開発=ジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)博士/エマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)博士
生命の設計図とも言われるゲノムはATGCの4文字で表されるDNAという物質でできています。この文字の並び方が遺伝子と呼ばれる情報になり、それをもとに体の材料となるタンパク質が作られます。「ゲノム編集」とは、このDNAを思いのままに切ったり、つないだり、新しいDNAを入れたりする技術をいいます。 それまでも、ゲノム編集技術は存在しましたが、ダウドナ博士とシャルパンティエ博士の研究チームは従来よりも簡単に、早く、安く、正確に行う方法を開発しました。
現在はさまざまな生物でゲノムの解読が進められていますが、ATGCの文字配列を解読しても、その配列(遺伝子)が体の中でどんな役割を果たしているのかまでは分かりません。 未知の遺伝子の働きを調べるのによく用いられるのは、その遺伝子を働かなくした実験動物です。ほ乳類ではマウスを使うのが一般的ですが、これまでは実験に使う遺伝子組換えマウスを作るのに複雑な実験と何匹ものマウスの犠牲を伴ったため、長い時間とお金が必要でした。このゲノム編集ツール 「CRISPR/Cas9」の技術を使えば、その時間と予算が一気に縮小できる可能性が高く、生体内での遺伝子の働きを調べる研究が加速することが想像できます。 しかし一方で、生まれてくる前の受精卵にゲノム編集技術を応用することも現実的になってきました。生命の設計図を直接操作して思いのままの人間をつくる、それは私たちにとってどんな“光と影“をもたらすのでしょうか──。 ◎予想=科学コミュニケーター・鈴木啓子