多様性を叫ぶのに不倫を許さない日本、妻の前で愛人遍歴を語った勝新太郎のように夫婦のあり方は多様でいいのでは?
10月の衆院選で議席を4倍に増やす大躍進を遂げ、「103万円の壁」で国会を牽引する国民民主党の党首、玉木雄一郎氏。自らの不倫が報じられると、早々に記者会見を開いて潔く事実を認めたが、最終的には党の役職停止3カ月という処分が下った。 【実際の写真】妻の前で愛人遍歴を語った勝新太郎。確かに、激しくモテそう。 「こんな大事な時期に、こんな報道されて、何やってるんだと強く叱責を受けました」と、玉木氏は不倫の謝罪会見で妻の説教を引用した。夫の色恋よりも、政治状況を案ずる玉木氏の妻と、その言葉をお叱りの肝として語る玉木氏は、夫婦以上に同志のような関係なのかもしれない。 不倫は現代の日本において、どのような意味を持っているのか。不倫を通して、夫婦のどんな関係性や心理が見えるのか。『不倫論 この生きづらい世界で愛について考えるために』(平凡社)を上梓した、元AV女優で作家の鈴木涼美氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト) ──2014年に判決が出た「銀座ホステス枕営業裁判(※)」に関して、本書の中で何度か言及されています。この裁判はなぜ象徴的なのでしょうか? ※会社経営の男性が、銀座のクラブのママと不倫関係にあり、妻が慰謝料を求めてクラブのママに対して裁判を起こしたが、クラブのママにとって客との性交渉は営業活動であり、「不倫行為にはあたらない」という判決が下された。 鈴木涼美氏(以下、鈴木):お金を払って娼婦と寝るのは不倫かどうか。これは国際的にも議論の分かれるところだと思いますが、日本では水商売や風俗の文化は盛んです。 多くの人が仕事の延長で、キャバクラやクラブを訪れる。こうした場所は性や恋を売っているのだから、そこには何かしら色っぽい出来事がある。 既婚者がそうした場所で遊ぶことと、職場の女性とのワンナイト・ラブのどちらが罪深いか、考えてみるとよく分からない。こうした曖昧さがある中で、この裁判では日本人男性の感覚を典型的に表す判決が出ました。 つまり、裁判官からすると、妻に対して抱く気持ちとホステスに対して抱く興奮は別物で、後者は家庭を破壊するものではないのです。谷崎潤一郎や川端康成の文学などにも通じますが、日本の不倫文化はこの視点が多い。 結婚生活において、妻と妻の外の者は別扱いで、外で何があっても盤石な立場として妻が設定されていたのが昭和の感覚で、不倫に対する当時の日本人の答えのようなものかもしれません。 そして、愛人の存在を割と許容する文化も、ある時代まではありました。でも、アメリカなど海外の文化が入ってきて、不倫に対してもより懲罰的な視点を持つ人が増えました。 ──吉行淳之介などは典型でしたが、文学において不倫はほとんど自慢話の一種という扱いでした。 鈴木:そうですね。たとえば、近年は不倫スキャンダルで注目されることが多い『週刊文春』の発行元は文藝春秋です。当然、文学の世界では不倫は当たり前に描かれているし、『文藝春秋』本誌の歴史を紐解くと、文学の外であっても不倫に対してずっと批判的であったわけではもちろんありません。