老親との会話はなぜこじれるのか? 介護疲れの原因となる「高齢者の二大バイアス」
ケース② エンディングノートを書いてほしい
エンディングノートを書くのが億劫、と感じる親は多くいます。死のことなんて考えたくないし、相続などの煩雑な話にも向き合いたくない。そう考えたとき、親は「先送り」をします。後々の必要より「今の楽」を選ぶ、つまり現在バイアスが強く働くのです。 これを解除するには「同調バイアス」がカギ。「お母さんくらいの年になると、みんな書くらしいよ」と聞くと、「そうなの?」という気になりやすいのです。ケアマネジャーなどプロの方から、「皆さん書かれています」と言われると、さらに説得力が増します。 また、保険会社には、アドバイザーが訪問して書き方を教えてくれるところもあります。これを利用すると、親の中では「わざわざ来てくれたのだから、書かないと申し訳ない」という「返報性バイアス」が働きます。複数回通ってもらうと、「次回までに書き進めておかないと」という、「コミットメント」の心理も働き、さらにスムーズです。 第三者の力を借りない場合は、「億劫」を解除する手助けが有効です。それにはまず、「一緒にやろう」と誘うこと。そばに座って、協力しながら進めていくと親も心丈夫です。 特に「最初の一行」を書いてもらうことが大事です。物事は、第一歩がもっとも面倒なものです。逆に言うと、その一歩さえ踏み出せば二歩目、三歩目に進みやすくなります。 とりわけお勧めなのが、一ページ目の一行目に「名前」を書いてもらうこと。署名をすると、「保有バイアス」が働きます。「自分のもの」という認識ができ、ひいてはノートを書くことが「自分ごと」になります。名前を書くために表紙をめくるアクションも、第一歩を強力に後押しするでしょう。
ケース③ 父に免許を返納してほしい
身体の衰えてきた父親が運転を続けるのは心配。しかし本人は、免許返納を断固拒否、というシーン。残念ですが、お父さんを説得するのはまず不可能でしょう。身体が衰えてきたからこそ「自由に動く足」を手放したくない。そこには、強烈な保有バイアスが働いています。 ですから、変則技でいくのはいかがでしょうか? 免許返納の目的は「本人の安全を守ること」なので、運転しない状況をつくれればいいのです。 それには、車を視界から外すのがベスト。子どもの家など、お父さんから見えない場所に車を置き、「長期修理が必要なんだって」と伝えるのはいかがでしょうか。目の前に車がなければ、別の選択に目が向きます。誰かに乗せてもらう、タクシーを利用するといった新しい移動方法を経験してもらい、徐々に慣れるのを待ってみます。 なお、タクシー利用に対して「お金がもったいない」と言う親もいるでしょう。タクシーはその都度支払いをするため、お金がかかる印象を受けやすいのです。逆に、マイカーの維持費は実際より安く感じます。ガソリン代+税金+保険料他で月に4~6万円程度と、実はタクシーより割高になることも。しかし支払う機会はガソリンスタンドや高速に入るときのみなので、「苦痛」の頻度が低いのです。 ということは、タクシーの「苦痛」も減らせばいいのです。タクシー会社から月ごとの請求書を送ってもらって、子どもが支払うかたちにすれば解決できます。親のストレスも減り、子どもも安心できるでしょう。