老親との会話はなぜこじれるのか? 介護疲れの原因となる「高齢者の二大バイアス」
高齢者に見られる「二大バイアス」
親に関して押さえるべきは「高齢者の二大バイアス」です。 一つ目は「現状維持バイアス」(=今のままでいたい、と思う心理)です。新しいことに抵抗感があり、たとえ合理性がなくとも従来のやり方に執着します。「○○医院の薬は効かない」といった話を延々とする割りに、「じゃ、別のお医者さんに行ってみる?」と言うと嫌がる、などが典型例です。 二つ目は「現在バイアス」。目の前のことを過大評価する、つまり「今が大事」と感じる心理です。このバイアスが働くとせっかちになり、些細な用事で「今すぐ来て!」と他人を呼び出す、などの行動が多くなります。「現在バイアス」は「将来のメリットよりも目の前のこと」を優先する傾向とも言えます。 これは、高齢になった自分を想像すると理解しやすいと思います。例えば現在50代の私は、80歳になったときを見越して投資をしていますが、もし今80歳なら、投資などせず好きなことにお金を使うでしょう。残された時間が短いほど「今が大事」になるのは、ごく自然なこととも言えます。
親に対して「採点」が厳しくなる理由
一方、子ども側にはどのような認知バイアスが働くのでしょうか。老親に関する悩みでよく聞くのが、「他人には親切に振る舞えるのに、親に優しくできない」というもの。これは、「投影バイアス」が働いているせいと考えられます。 投影バイアスとは、「今までこうだったから、これからもそうだろう」という思い込みです。昔と同じ、しっかりした親の姿を期待する一方、今の親の姿との違いに直面し、イライラするというわけです。 このとき同時に「帰属バイアス」(=相手のせいだ、と感じる心理)も起こります。昔とは違う親の態度を、あたかも自分に対する悪意のように感じてカチンとくるのです。 「自己奉仕バイアス」(=自分に優しく他者に厳しい評価をする心理)も働きます。自分の行為は実際より素晴らしく、人の失敗は実際よりダメに見えるため、「自分はこんなに尽くしているのに、お母さんときたら」というストレスが溜まります。 また、「後知恵バイアス」(=後から知ったことについて、最初からわかっていたような気持ちになるバイアス)もあります。親が失敗したとき「前々から危なっかしいと思ってたよ」などと言ってしまうのが典型例です。 自分に生じるこれらのバイアスは、本能によるものなので止めることはできません。しかし自覚するだけでも意味があります。「このバイアスのせいで、自分は過剰に腹を立てているのだ」と、客観的かつ冷静な視点を得られるからです。 ここからは、よくある親とのすれ違いと、その原因となるバイアス、そしてケースごとのナッジを用いた対処法を紹介しましょう。