「成年後見制度」なんか利用しなければよかった……弁護士を後見人にしたら、明るい人生が暗転してしまった話
いきなり施設入りを勧めた
それにしてもK弁護士は、なぜ施設入所にこだわったのか。ヒントは、ある日のK弁護士の発言にあった。 「K弁護士が父と私と一緒に、俊彦名義の不動産を見て回ったときのことです。K弁護士は“お父さん(香川さんのこと)はもう高齢だから大変でしょ。ゆっくり自分の人生を楽しんで下さいよ。次は私が後見人になるかな”と言いました。 別の日には“老朽化したアパートは売却したほうがいい。自宅の売却は裁判所の許可が必要なので、それについてはまたアドバイスさせていただく”と進言した」(真由さん) 前任の監督人の怠慢や、いきなり施設入りを勧めたK弁護士への不信感から、念のため、真由さんは発言を録音していた。上記のK氏の発言内容は、私も録音データを聞き、事実であることを確認している。 成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表は、この録音データを聞いて、次のように話した。
時給60万~70万円の仕事
「この弁護士は、自分が後見人になることを想定して話しているように思えます。監督人より後見人のほうが報酬が多い。俊彦さんの預貯金は1億円を超えているので、後見人になることができれば年間の基本報酬だけで60万~70万円もらえます。 後見人になって俊彦さんを施設に入れてしまえば、施設費や介護・医療費などは自動引き落としで済み、面倒なことは施設任せにできる。後見人は事務所の金庫に俊彦さん名義の通帳とカードを保管し、年一回の家裁への報告書を書くだけですからラクな仕事です。実働時間は、年間で1時間程度に過ぎません。時給60万~70万円のおいしい仕事というわけです」 K弁護士が、施設入りや不動産売却を勧めた背景についてはこう語る。 「施設に入れることで自宅は空き家になります。家裁が“施設から自宅に戻る可能性はない”と判断すれば、後見人の求めに応じて自宅の売却を認めます。また俊彦さん名義の他の不動産は俊彦さんの住居ではないので、後見人の判断で売却可能です。これらの俊彦さん名義の不動産を売却すると、後見人は一件につき100万円程度のボーナスを売却代金の中からもらえます」(宮内氏) しかも後見人の基本報酬は預貯金に比例するので、不動産売却資金を預貯金に加えることで後見人の年間基本報酬もアップする。 目論見通りと言うべきか、K弁護士は2016年9月、香川さんに代わり家裁から後見人に選任された。きっかけは香川さんの持病の腰痛の悪化だった。 後編記事『後見人の弁護士から「ペット」呼ばわりされて……成年後見制度は認知症の人や障害者を社会的エリートが搾取する仕組みではないか』へ続く。
長谷川 学(ジャーナリスト)