「成年後見制度」なんか利用しなければよかった……弁護士を後見人にしたら、明るい人生が暗転してしまった話
青森の施設に移って
就任した途端、K弁護士は「自宅で俊彦さんと暮らすのは無理だから施設に入れて下さい」と進言したのだ。俊彦さんは「一人は寂しいよ」と、これまでの暮らしの継続を望み、香川さん一家も「俊彦の日々の生活や状態を何も知らない人が勝手に決めるのはおかしい」と反対した。 真由さんが話す。 「K弁護士は『監督人の言うことを聞かなければ、報告書に“後見人の言うことを聞かない”と書きますよ』と威圧的な発言をしたことがあります。監督人に“後見人として不適格”と家裁に報告されると、父は後見人を解任される恐れがありました。 実際、監督人の進言で親族が後見人を解任された事例も知っていました。それでやむなく区役所に相談したところ、遠く離れた青森県の施設を紹介された。そんな遠いところは……と思いましたが、いったん体験的に短期入所させ“俊彦が嫌がっている”と理由をつけて、時間をおかずに自宅に連れ戻せばいいと考え妥協してしまった。 その後、私たち家族は家裁と弁護士に“施設から自宅に戻すことを認めてほしい”と繰り返し求めたが、家裁と弁護士は“施設に入れたのは香川さん一家だ”と訴えを退けたのです」 こうして2016年8月、俊彦さんは青森県の施設に移った。俊彦さんの生活は一変した。 ある日のこと、香川さん一家が施設を訪ねると、俊彦さんは、食堂の壁際の席に1人ポツンと座り、黙々と箸を動かしていた。
爪も伸びっぱなし
香川さん一家と暮らしていたとき、俊彦さんは家族との団欒を楽しみ、笑いが絶えず「表情は豊かで生き生きしていた」(真由さん)。だが施設では、俊彦さんの表情は暗く別人のように表情を失っていた。 「あまり入浴していないのか、俊彦の部屋は尿臭と体臭が漂い、消臭剤が置かれていた。髪は伸び放題で、私が靴下を脱がせると、足の皮膚がぼろぼろと剥がれ落ちた。足爪を切っていないのか、巻き爪が長く伸びていました」(真由さん) つかの間の面会を終えて、香川さん一家が施設を去ろうとすると、俊彦さんは「家に帰りたい」としがみついた。 障害者本人と受け入れ側の香川さん一家が同居を望んでも、それを家裁と弁護士が認めないという、この不条理。 「いったい成年後見制度の目的は何なのか。認知症の人や障害者の人権を守り、生活を向上させるためのものではないのか」と香川さん一家は苦悶した。そしてその約2年後、香川さん親子は「家に帰りたい」という俊彦さんの思いを受け止めて東京に連れ戻した。 弁護士は施設に返すように言ったが、「どこに住むかを決める権限は本人にある」と突っぱねた。