AIを使ってもテストの点はとれない? ドイツの大学生の調査から見えてきた、生成AIを使うリスク
調査の結果は…
その結果は次のようなものだった。 まずAIを使用した学生は、使用しなかった学生に比べ、期末試験において平均で6.71点(100点満点中)低い成績を記録した。この差は統計的に有意であり、AIを使用した学生の成績が非使用者より約15%低いことを意味しているそうである。また、AIを使用した学生が合格ライン(41点)を下回る可能性が高くなることも確認された。 ここまで見ると、「不真面目な学生ほどChatGPTに頼るだろうから、それで期末試験の結果が良くなかったのでは?」という逆相関を疑いたくなるだろう。 しかし面白いことに、この調査では「高い学習ポテンシャルを持つ学生」(高校での成績が良かった学生や、授業の出席率が高かった学生など)ほど、AIの使用で成績が下がったそうである。さらに再試験を受けた学生のデータを分析したところ、AIを使用した学生は、使用しなかった学生に比べて再試験での成績改善が大幅に少なくなることも確認されている。 これらの結果も踏まえると、やはりChatGPTに頼ったことが、試験の成績に何らかの理由で影響を与えていると考えられそうだ。研究者らも、特に優秀で積極的な学生にとって、AI使用が深い学習を妨げる危険性があることを指摘している。
なぜChatGPT利用者の成績が悪かったのか?
ではなぜChatGPTを利用した学生は、試験で優れた結果を残せなかったのだろうか。研究者らはいくつかの考察を行っている。 まずはChatGPTに頼ることによって、学習に必要なプロセスの一部がスキップされてしまい、知識の深い理解や定着が阻害されたのではないかという説明だ。 今回の研究では、学生たちに対してレポートを書くという課題が与えられ、その中で学生は、たとえばChatGPTに対してレポートの骨子を考えさせるといった使い方をすることができた。もちろんそれは生成AIの有効な使い方であり、レポートの執筆を効率化するものだが、学習という観点から見た場合には必ずしも望ましいものとは言えない。レポート作成というタスクを通じて得られる、必要な学習内容の理解、分析、要約といった重要な認知プロセスが省略されてしまうためだ。 その結果、ChatGPTを使用した学生は学習内容を深く掘り下げる機会が減り、試験で必要とされる理解力や応用力を、十分に身につけることができなかったというわけである。 研究者らはこの状況を、構成主義学習理論(Constructivist Theory of Learning)という理論から説明している。これは学習者が自らの経験を基に知識を構築することを重視する理論で、彼らが積極的に学習内容に取り組むことにより、より深い理解が得られると見なされている。 ChatGPTを使用すると、学生がこの重要な学習プロセスを迂回してしまうため、学びの質が低下するわけだ。さらに優秀で積極的な学生ほど、ChatGPTを使用しなければ深い学びを得られる可能性が高かったため、その機会が失われた影響が顕著になったと考えられている。 また研究者らは、ChatGPTを使うことで「このくらいの問題なら簡単に解ける」という感覚が生まれ、学習そのものに対する意欲が低下する可能性があるという指摘も行っている。ChatGPTの実力を、自分の実力と勘違いしてしまうわけだ。 そしてモチベーションがなくなれば、試験に向けた準備も不十分になる。またChatGPTが使える環境に満足していれば、自力で問題を解決する能力も育たなくなってしまう。その結果、いざ期末試験というChatGPTに頼れない環境に置かれると、学力不足が明らかになってしまうわけである。