「いつも『死ぬんじゃないか』と思うくらい落としていた」限界迎えていたレスリング・樋口黎の体、手にした糸口
どんな失敗や挫折にも意味がある。計量のルール変更によって、浮き沈みが激しい選手人生を送ることになったレスリング・樋口黎。2016年のリオデジャネイロ五輪、男子フリースタイル57kg級で銀メダルを獲得するも東京五輪には出場ならず。今年、再びパリ五輪で金メダルを目指す挑戦権を手に入れた。試行錯誤を繰り返し、たどり着いた現在地。本人が渡仏前にその胸中を語った。 (文=布施鋼治、写真=United World Wrestling/アフロ)
限界を迎えていた樋口黎の体
ルール変更によって、アスリートの人生は大きく左右される。2016年のリオデジャネイロ五輪・男子フリースタイル57kg級で銀メダルを獲得した樋口黎の場合、2018年から施行された計量日時の変更で何度も地獄に突き落とされた。 「子どものときからずっと前日計量だったので、当日計量になったら、ちょっと手さぐりの状態になってしまった」 前日計量ならば、計量をクリアして食事をしてからマットに上がるまで少なくとも半日以上のリカバリーの時間がある。年を重ねるごとに減量がきつくなってきた樋口は前日計量を目安に調整し、当日リカバリーして素晴らしいパフォーマンスを披露してきた。 しかし、当日計量になると、事情は大きく変わってくる。計量をクリアしたとしても、試合までほんの数時間しか猶予はなくなる。減量に苦しむ選手であればあるほど、当日計量は“もう一つの敵”になるのだ。 案の定、ルールが変更されると、樋口の成績は浮き沈みが激しくなる。2017年からは57kg級より一つ上の五輪階級である65kg級に挑戦。2019年には東京五輪で金メダルを獲得する乙黒拓斗を破るという殊勲の星をあげた。 「彼は強いですね。いまでも参考にしている選手で、すべてが完成している。フィジカルも技術も超一流だと思う。いまでも、彼の(対戦相手の体勢の)落とし方であったり、差しの部分を参考にしたりしています」 結局、東京五輪はリオデジャネイロ五輪と同じ57kg級での出場を目指したが、決勝まで進めば自分の出場枠を確保できた2021年春のアジア予選でまさかの失態を演じてしまう。当日計量で失格になってしまったのだ。オーバーした体重はわずか50gだったので、髪の毛を切ったりしてなんとかクリアしようとしたが、すでに樋口の体は限界を迎えていた。