田中亮明ボクシング五輪フライ級61年ぶり銅メダル獲得の裏に元3階級制覇王者の弟からの千切れた3枚のメモ
東京五輪ボクシングの男子フライ級準決勝が5日、両国国技館で行われ、田中亮明(27、中京高教諭)は、カルロ・パアラム(23。フィリピン)に0―5で敗れた。決勝進出はならなかったが、ボクシング競技は3位決定戦がないため銅メダルが確定。男子ボクシングの銅メダル獲得はロンドン五輪の清水聡(現OPBF、WBOアジアフェザー級2冠王、大橋ジム)以来で、同階級では1960年ローマ五輪の田辺清氏に並ぶ61年ぶりの快挙となった。田中は元3階級制覇王者、恒成(26)の兄で銅メダル獲得の裏には、兄弟の絆があった。
3ラウンドにガードを下げて勝負の誘い
完全燃焼した。ゴングと同時にロープに両手を預けてもたれかかるほど、すべてを出し切った田中は、0-5の大差判定負けにも「最高です。気分は」と晴れやかな表情を浮かべた。 「負けたけど負けたと思っていない。自分との戦いには勝った。だから気分も悪くない」 第1ラウンド。サウスポースタイルの田中は2019年世界選手権で5位だったパアラムにスタートからジャブ、ワンツーで果敢にプレッシャーをかけた。パンチを打つ瞬間「ダッ!」とも「アッ!」とも聞こえる声を出しながら前へ出て、目先を変えて打ち込む左ボディも効果的だった。だが、それ以上にフィリピンボクサーは試合巧者だった。ステップバックで距離を取り、田中のパンチの打ち終わりに正確に右ストレートをヒットさせてきた。的中させたパンチの数はフィリピン人ボクサーが上。このラウンドはジャッジの5者全員が共にパアラムを支持した。 第2ラウンドに田中は戦略を変えた。パアラムのカウンターを潰そうとガードを固めたまま強引に突っ込んで距離を詰めた。ロングのジャブではなくショートのジャブからの連打にフックも交えて突破口を開こうとした。しかし、フィリピン人のフットワークは止まらなかった。田中のスタイルの変化にも対応して変わらずカウンターの右ストレートを合わせてきた。パッパッとスピードのあるワンツーを打っては離れ、逆に田中のパンチの軌道が荒くなってきた。このラウンドもジャッジ全員がパアラムを支持。いよいよ後のなくなった田中は、第3ラウンドで勝負に出る。 田中は、あえて右のガードをL字に下げてパンチを誘ったのだ。 大会前に「ノックアウトを狙いたい。元々試合のなかでカウンターで一発ダウンを取ることが多い」と語っていた。相手が誘いに乗れば、そこにカウンターの一撃をお見舞いする。肉を切らせて骨を断つ。リスク承知の一発逆転狙いである。だが、したたかなパアラムは乗ってこなかった。田中の力んだパンチが大振りになり空を切った。 そしてゴング。ユナシマステジションでの0-5のスコアが告げられた瞬間、フィリピン人ボクサーは両膝をキャンバスに落として喜びを表現した。彼もギリギリで戦っていたのだ。 決勝進出はならなかったが今大会で日本男子で唯一となる価値ある銅メダルである。