投票率、対ロ・対中外交、参政権……在日外国人が考える、日本の選挙と政治
加えて、日本人の「不満を言わない国民性」が政治に影響しているのではないかとマヘーマーさんは言う。 「日本はみんなで団結をする社会じゃないですか。自分だけ違うことをやるのがちょっと難しい、お互いにがまんする社会」 その中では変化は生まれにくいし、政治に対する批判も大きなうねりにはならない。汚職があっても辞職をすればそれで終わり。国民もミャンマーのように激しい抗議活動を起こすことはない。 一方で、軍の圧政に苦しみ続けているミャンマー人から見れば、日本は「自由の国」でもある。 「与野党が国会で討論しているところを、毎日テレビで放映しますよね。議員にスキャンダルがあれば国会で追及もする。それは素晴らしいことなんですよ。ミャンマーは民政だった頃も議席の1/4が軍人だから、そこまではできなかった」 いち生活者としては、マヘーマーさんも日本人と同じように物価高がしんどいと感じている。そこを政治には改善してほしい。 「玉ねぎとか野菜が高くて本当に大変。なのに給料はぜんぜん上がらないって、まわりのミャンマー人も言ってます(笑)」
円安で輸入品も値上がりしている。たとえばミャンマー料理には欠かせないラペッ(発酵させた茶葉)も、日本国内のミャンマー食材店で800円ほどだったものが1000円以上になっているという。ミャンマー人は給料の安い技能実習生や、アルバイトで暮らす留学生も多いため、物価の上昇はすぐ生活苦につながる。 「友達同士で助け合ってどうにかしのいでいる人もいます」 そんな彼らもまた日本社会を支える成員であり、納税者だ。参政権もあったほうがいいとマヘーマーさんは思っている。しかし「仲間として受け入れてくれるまでに、日本は時間がかかる」とも感じる。近所の日本人にあいさつをしても、無視されてしまうこともある。 「政治家には、地域の人と外国人が共生できるような取り組みをしてほしいと思います。受け入れるのはなかなか難しいかもしれないけれど、私たちも日本で生きているよって、異質かもしれないけれど、同じ人間だよって知ってほしい」 日本に暮らす外国人はおよそ300万人にまで増えた。その多くは、労働力不足を補うために日本政府や経済界が呼び込んだ人々だ。であるなら、政治はもう少し彼らの声を、拾ってもいいように思うのだ。 ___ 室橋裕和(むろはし・ひろかず) 1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイ・バンコクに10年在住。帰国後はアジア専門の記者・編集者として活動。取材テーマは「アジアに生きる日本人、日本に生きるアジア人」。現在は日本最大の多国籍タウン、新大久保に暮らす。おもな著書は『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(辰巳出版)、『日本の異国 在日外国人の知られざる日常』(晶文社)、『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』(イースト・プレス)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書、共編著)など。