投票率、対ロ・対中外交、参政権……在日外国人が考える、日本の選挙と政治
「日本はすごく優しいな、と思う。でも日本人の中にも給料が安いとか、年金が足りないとか、大変な人がいるでしょう。それなのに避難民を支援するというのは、日本人から見ればよくないのかもしれない」 そんなことを話していると、お店にリュドゥミラさんの娘、角田ヴィクトリアさん(19)もやってきた。彼女は、ウクライナ支援の根っこに日本の欧米コンプレックスがあるのでは、と語る。 「日本はアジアの中の西洋でありたい、という気持ちがあるように思うんです。でも、それが度を越しすぎるのは良くないと思う」 医師を目指して勉強中のヴィクトリアさんは、日本国籍と選挙権を持つ。2016年から始まった「18歳選挙権」の恩恵を得た世代だ。 「今回の参議院選挙も絶対に行きます!」 そう力強く断言するが、「同世代の友達で、選挙に興味がある人はほとんどいないです……」と呟く。
一方ウクライナの場合、ソ連時代にも選挙はあったが形ばかりで共産党への信任投票に過ぎず、だから独立後に自由な意思を示せるようになってからの選挙は大事にされてきたし、投票率も高い(例えば、独立以降の大統領選挙の投票率は平均70%で推移、前回の2019年は62%。ウクライナ中央選挙委員会による)。ステファニヤさんも「独立後は毎回必ず選挙に行っていた」と話す。
「これじゃソ連の社会主義ですよ」
リュドゥミラさんは日本に28年間も住み、働き、納税し、日本人と結婚しているが、参政権はない。 「参政権、欲しいと思います。ここ川口は外国人が多いでしょう(註:埼玉県川口市は人口約60万人の6.3%、3万8000人が外国籍)。ずっと住む意志がある外国人には政治に参加してもらって、意見を出し合えばいい。きっと、良いアイデアを持っている外国人も多いと思いますよ」 ヴィクトリアさんが反論する。 「どっちかというと反対だな。参政権を目的に、どんな人が来るのかわからないし」 「一度やってみればいいんだよ。そういうことでもなければ、日本にはもう変化がないでしょう」 今度はリュドゥミラさんが返す。こんな議論が、普段から繰り広げられているのだ。 「いっつもケンカで終わっちゃうんです」 ヴィクトリアさんは笑うが、仲がいいからこそデリケートな話題でもとことん話し合えるのだろう。 リュドゥミラさんが繰り返していたのは「日本では自由な意見を出しにくい」ということだ。 「能力を出しちゃいけない、出すと叩かれる。これは政治も含めた日本の社会に言えるように思う。それに議論ばかりで、物ごとがなかなか進まない。これじゃソ連の社会主義ですよ」 リュドゥミラさんはウクライナが独立する前の、ソ連時代の不自由な空気を知っている。学校では自由な意見を言うと口ごたえだと叱られ、教師からは「あなたたちは聞いているだけでいい」と言われた。テストは暗記したことだけを書くもので、意見は求められなかった。日本は社会主義でもないのに、同じような風潮を感じる。 「だから、日本はもっと教育に力を入れてほしい。自由な意見をどんどん言えるようにね。ベースが素晴らしいのに、ひとりひとりのアイデアを活かせていない、出せないように見えるんです」 ヴィクトリアさんは、日本も二大政党が切磋琢磨するべきだと語る。 「イギリスのようにふたつの政党がお互いに監視し合うようになれば……」 「日本は欧米とは違うんだから、たくさんの党があってもいいの。それよりも、自分の意見をはっきり言える社会であれば、優秀な政治家も出てくると思うよ」 まだまだ議論は続きそうだ。そんな母娘を、ステファニヤさんが優しく見守っていた。